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評者◆秋竜山
思ってもみなかった爪切り、の巻
No.3160 ・ 2014年05月31日




■痛さと痒さと、どっちがつらいか。やっぱり痛さだろうか。かなり痛いおもいはしたことがあったが、痒さはどーだろうか。耳の中の痒さぐらいだろうか。いや、背中の手が届かない痒さぐらいか。その背中の手が届かない痒さで腹がたつのは、女房が、痒いところに手が届かないということだ。こんな癪にさわることはない。「どーしてなんだ!!」と、私がわめくと、「じゃァ、しらない」と、女房。よけい腹がたつ。こっちの虫のいい話かもしれない。深夜、突然おそわれる、耳の中の痒さもつらいものである。自分の小指を耳の中へ突っ込んでかこうとしても、指先があとすこしというところでやくにたたない。私は、そんな時のために、暗やみの枕元であっても、右手をのばしてまさぐると、耳かき棒に手がふれるようにしている。だから、ちっとも心配はない。ところが、私に黙ってテーブルの上をかたづけたりする。計算されたあるべきところに、あるべきものがないということは悲劇である。そこにあるべき耳かき棒がどこかへやられてしまったことは、その耳かきに手がふれないということだ。「どこへ、やってしまったんだ。どこへ」と、暗やみの中で私はわめくことになる。私は、そこらじゅうの引き出しを開けてみたが、ついに耳かき棒はなかった。
 外山滋比古『乱読のセレンディピティ――思いがけないことを発見するための読書術』(扶桑社、本体九二〇円)を読む。
 〈セレンディピティ(serendipity)思いがけないことを発見する能力。とくに科学分野で失敗が思わぬ大発見につながるときに使われる。〉(本書より)
 〈一般に乱読はよくないとされる。なるべく避けるのが望ましいと言われる。しかし、乱読でなくてはおこらないセレンディピティがあることを認めるのは新しい思考と言ってよい。〉〈化学的なことは、失敗が多い。しかし、その失敗の中に新しいことがひそんでいることがあって、それがセレンディピティにつながることがある。昔からケガの功名、というが、セレンディピティは、間違いの功名である。〉(本書より)
 耳かき棒が私の開けるところ開けるところどこにも置かれてなかった。そのかわり、ある引き出しの中に爪切りがあった。思ってもみなかった爪切りである。私は爪切りを大発見したことになる。爪切りの出現により、私は爪切りを始めたのであった。耳の中の痒さはどうなってしまったかというと、爪切りのおかげというべきか。あの大さわぎした耳の痒さが消えてしまったのであった。まるでウソのように消えてしまった。この爪切りの発見を、セレンディピティというのだろうか。耳かきから爪切りというテンカイは、頭の中でいくら考えても、それにはつながらないだろう。私は、乱読のように、引き出しを次々と開けまわった。そのおかげで、のびていて気になっていた手足の爪を切ることができたのである。
 〈乱読本は読むものに、化学的影響を与える。全体としてはおもしろくなくても、部分的に化学反応をおこして熱くなる。発見のチャンスがある.〉(本書より)
 乱読の効用はよくわかった。だからといって、それでは私も! と、いうような簡単なものではない。







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