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評者◆添田馨
言葉は“巨人”に変身できるか――巨人的なるものの考察(4)
No.3159 ・ 2014年05月24日
■普段は私たちとなんら変わらない人間なのに、世界のどこかで危機的な事態が発生した時には自ら“巨人”と化し、無力な私たちを窮地から救いだす……そんな超越的存在といえば真っ先に思い浮かぶのが昭和41年(1966年)にTV放映されたあの「ウルトラマン」だ。
宇宙の彼方の星からやってきたというこの光の巨人は、戦後のわが国における巨人的なるもののひとつの典型を最もよく体現していた。それは怪獣を退治するという正義(大義名分)の根拠設定が、地上的なそれから端的に天上的なものへとシフトした点、つまり“巨人化”した点にある。ウルトラマンという正義のヒーローの存在理由が、いまも私たちに直接に投げかけてくるひとつの寓意こそが、巨人をめぐるこの一連の考察の最後のテーマでもある。 あるとき人間の言葉が“巨人的”なオーラ、つまり超越的な属性を帯びるに至るという発生のメカニズムは、ウルトラマン自身を生み出した来歴の秘密にこそ、じつは語り得ぬ寓意として隠されてあった。M78星雲の名もない異星人が地球人ハヤタを任務中に死なせてしまうという偶然の事故が、この場合、決定的な意味を担っていた。異星人はその取り返しのつかない罪障意識と引き換えに、自己都合を一切捨てて、特に義理があった訳でもない地球に移り住み、日夜怪獣退治という危険な任務に自身を捧げることを決意するのである。 凶悪な姿のなかにもどこか愛嬌がある怪獣たちには申し訳ないが、彼等は図体はでかくてもその本質はこうした“巨人”とは程遠い。彼等はいつも自己中心的な理由によって、ただ地上を暴れまわるだけだからだ。私たちの言葉は、もともと地上的な物事へと照準するようにしかできていない。だが運命の采配で、巨人化の契機は等しく万人にもたらされ得る、そういうものだと私は信じる。政治的言説のように地上の言葉で天上の正義を語ることと、それは根本的に異なるのである。 (この項おわり) |
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