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評者◆内堀弘
小さな箱のような古本屋――三河島の稲垣書店、京都のヨゾラ舎
No.3159 ・ 2014年05月24日




■某月某日。月曜の午後、出先の用事を済ませ、北千住で常磐線に乗り換えた。下町にはほとんど地理感がない。三河島がすぐ側だというのも車内の路線図で知った。
 三河島の稲垣書店は映画文献で知られる古書店だ。その店主の中山信行さん(このジャンルでは生き字引のような人だ)とは、もう四半世紀を越える付き合いになるが、店に行ったことがない。いや、店といっても営業しているのは土曜から月曜までの三日だけなのだが。
 三河島で降りると、店はすぐに見つかった。五坪ほどの、まるで小さな箱のような古本屋だ。専門古書店というと、どこか事務所のようなイメージがあったので、その佇まいは意外だった。夕暮れどき、もう明かりがともって、店主は何か調べごとをしている。硝子戸越しに見えるそんな光景がとても幸せそうだ。
 京都の画家林哲夫さんの「デイリースムース」は人気の書物ブログで、私も愛読者だ。三月の中頃、ここにヨゾラ舎という新しい古本屋が紹介された。
 京都の静かな路地に、若い人が小さな古本屋をオープンした。まだ本棚も埋まっていない。林さんは、生まれたばかりの新鮮な空気を伝えた。ヨゾラ舎にもブログがあって、これも面白い。
 いや、悪戦苦闘の日々を「面白い」と言っては申し訳ないが、店を開けていても、人が来なかったという嘆きや不安(店に来てくれたのは「蜂一匹」」というのは、もはや文学)。訪ねてくれた客への感謝。それがいかにも率直なのだ。古本屋という場所や時間が少しずつ出来上がっていくのを、硝子戸越しにのぞいているようだ。
 映画書に囲まれた稲垣書店で「なんで三日しか開けないんですか」と私は尋ねた。「そりゃ、こんな偏った品揃えじゃ近所の人は来なくなるよ」と中山さん。でも、三日は開ける。「やっぱり店が好きなんだよ。たまに来てくれるお客さんと話もしたいし、教えてもらうことって多いじゃない」。
 棚に『グレエタ・ガルボ』(楢崎勤・昭9)があった。斬新な装丁に息をのむ。これを買っていこう。「そんなに状態がいいのは珍しいだろ」。これを手にして腰掛けると、また話が続く。
 京都の路地にある小さな古本屋にも明かりがともった頃だ。今日はいい一日だったろうか。







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