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評者◆伊達政保
今後も続いていく状況をしっかりと見据えた作品――藤田傳氏の遺作となった作品『天下御免・想定外』
No.3158 ・ 2014年05月17日




■劇団1980の主宰者、作・演出家藤田傳氏が3月に亡くなられた。きなせ企画での新作上演を控えて、2月迄、演出に携われていたそうだ。残念である。
 オイラと劇団1980(以下80と略)との出会いは90年の『謎解き・河内十人斬り』原案・李闘士男、作・演出藤田傳から始まる。河内音頭を全編生演奏でやるというので、全関東河内音頭振興隊(隊長・朝倉喬司)が協力したのだ。これまでにないスタイルの、面白い音楽劇だった。以後、振興隊員であった飯田俊(ゆうげい社)が80に係わっていき、ゆうげい社所属のミュージシャン、「上々颱風」が音楽を担当したり、ジャズ・ドラマー古澤良次郎が一人芝居に挑戦したりした。そうした縁もあって80の芝居を見ていくことになった。
 『行路死亡人考』『素劇・あゝ東京行進曲』『戦争案内』など、新劇ともアングラとも大衆演劇とも異なるその劇風は、映画監督・今村昌平創設の横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)演劇科出身者によって結成されたことによるものだろう。そして藤田傳氏により今村昌平の人間喜劇を描くという主題が、継承されているように思われたのだ。その出自により演劇界のセクト的な一部から、あそこは演劇ではないと陰口を叩かれていたが、映画的表現を取り入れていたことへのやっかみだろう。また80は一方でアングラ演劇の系譜である新宿梁山泊の金守珍演出で今村監督の映画『ええじゃないか』を舞台化したり、新宿梁山泊との合同公演で『宇田川心中』作・小林恭二を上演したりと、新たな試みによって日本ばかりか韓国、ブラジル、ルーマニアとその活動を広げていったのだ。
 さて、藤田傳氏の遺作となってしまった『天下御免・想定外』は、原発問題を取り上げた作品である。チラシには、「この物語は人が息を引き取る間際に見せる、素顔の喜劇ですー。」とあった。原発事故を背景に、避難する人達の人間喜劇なのだろうと、オイラこれまでの藤田作品から想像していたのだが、違った!大震災と津波後の原発事故と放射能汚染と避難民に、ダイレクトに真正面から取り組んだ作品だったのだ。人間悲喜劇とそれをもたらした政府や東京電力への怒りは、満州からの引き揚げや人体実験にまで遡っていく。福島での現地取材や、埼玉の高校の避難所のダンボールハウス取材が、藤田氏に火を付けたのだ。客演斉藤晴彦(黒テント)の熱演もさることながら、主宰である90歳の大女優紀奈瀬衣緒ら高齢の俳優陣の演技には頭が下がる。「きなせ企画」はこの公演が最後という。ぜひ劇団1980で再演してほしい。今後も続いていく状況をしっかりと見た作品なのだから。







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