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評者◆殿島三紀
本音がぶつかる家族劇――監督 ジョン・ウェルズ『8月の家族たち』
No.3156 ・ 2014年04月26日




■『17歳』『コーヒーをめぐる冒険』『それでも夜は明ける』『あなたを抱きしめる日まで』『8月の家族たち』を観た。
 『17歳』。恵まれた家庭に育ち、成績も良い美少女。何ひとつ不自由のない17歳がなぜか売春。そして、その相手が腹上死……。難しい年頃をフランスの鬼才フランソワ・オゾン監督が鮮烈に描き出した。
 『コーヒーをめぐる冒険』。ドイツの新星ヤン・オーレ・ゲルスター監督のデビュー作。『勝手にしやがれ』を彷彿とさせる。最近続いた重厚長大なドイツ映画とは違ったアップテンポな作品。
 『それでも夜は明ける』。第86回アカデミー賞(R)作品賞・助演女優賞受賞。監督はアーティストでもあるスティーヴ・マックィーン。自由黒人だった男が強いられた12年間にわたる奴隷生活を回想した1853年出版の実話を映画化。
 『あなたを抱きしめる日まで』。10代で未婚の母となった主人公がアメリカに売られていった息子を捜す。ジュディ・デンチ主演の実話。スティーヴン・フリアーズ監督作品。泣かせ、笑わせ、おまけにサスペンスフルでもある佳作。
 今回の映画は『8月の家族たち』。ピューリッツァー賞とトニー賞を受賞した戯曲の映画化。脚本も原作者のトレイシー・レッツが担当。製作にはジョージ・クルーニーも名を連ねる。といっても、これといった大きな動きのある映画ではないのだが。
 アルコール依存症の父がいて、薬物中毒で口の悪い母がいる。その父が失踪し、三人娘と叔母が駆けつけ、ウンザリするほど蒸し暑そうなオクラホマの田舎の家で女の舌戦が繰り広げられる。母の悪口雑言を主に受けて立つのは長女。大学の教員仲間と結婚し、コロラドに住み、夫とは別居中。だが、父失踪の報を受け、夫と反抗期真っ最中の娘を連れて帰郷。次女は男ッ気がなく地元で一人暮らし。フロリダ暮らしの三女は女癖の悪そうな婚約者を連れて登場。母の妹もまた夫と気弱な息子同伴で駆けつける。このいかにもアメリカ的でスノッブな面々が蒸し暑い家で汗を流しながらしゃべくりまくるという話。山場は失踪した父が死体でみつかったということくらい。だが、メリル・ストリープ演ずるガンを患い、精神安定剤をチョコボールみたいにほおばる母の「ここまで言うか」という憎々しい言葉にのけぞり、いかにも優等生で融通のきかない長女がキレていく様にのめりこまされてしまうのだ。長女を演じるのは歳相応に老けたジュリア・ロバーツ。しゃべり倒し、罵りまくる。ひきつけられるのはこの2人の芸達者の持つ吸引力か。肉弾戦も交えた母子の舌戦に圧倒されつつ、次女や三女がコソコソと示す態度にも「ある、ある」と頷く。アクの強い母や姉の下で子供の頃から要領良くふるまってきたであろう妹たち。もらえるものはもらってトットと出ていこう、という下心も透けてみえる。
 アメリカの家族といえば、ハグしたりキスしたり、I love youだのI miss youだの、「そんなもんじゃないでしょ」と納得できない部分が多かった。だが、汗や蒸し暑さが溢れかえる真夏のオクラホマの田舎町で、差別やら金銭欲やら色欲やらの本音がぶつかりあう家族のなんと強烈なこと。どうなるものかと観ている内に思わぬ展開にもひきずりこまれる。母が露骨に示す差別をものともせずネイティヴ・アメリカンの家政婦がこの熱い家族を冷静にみつめるという第三者の設定も巧い。
 家族ならではの本音というのは洋の東西を問わないものか。これだけ言いたいことが言えたらスッキリするよなぁ。女同士のバトルの陰で薄れがちな男優たちだが、サム・シェパード、クリス・クーパーが静かなりに良い味を出していた。それにしても家族って難しい。ジャンルとしてはこれもホームドラマなのだろうが。
(フリーライター)

※『8月の家族たち』は、4月18日(金)より、TOHOシネマズシャンテほかにてロードショー。







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