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評者◆秋竜山
ナマケられない事情、の巻
No.3156 ・ 2014年04月26日




■池田清彦『ナマケモノに意義がある』(角川書店、本体七八一円)と、いう本。この本をどういう人間が買い求めて、読むのだろうか。人間、本来、ナマケモノ願望があると思う。働くのは好きで働いているのではないだろう。食うために毎日、いやいやながら働いているのである。ナマケたいが、ナマケられない事情はそんなところにあるのだ。動物園でまっさきに見にいくのは、パンダではない。ナマケモノである。そして、木にぶらさがっているナマケモノの姿を見て、「アア、やっぱりぶらさがっていた」と、ホッとするのである。ナマケモノは人間のためにぶらさがっているのではない。自分のためか、いや、もしかすると、自分ではなんのためにぶらさがっているのかわからないのかもしれない。そんなこと一度も考えたこともないだろう。人間は、そんなナマケモノを、うらやましいと思う。考えてみれば、なんとも情けないことだ。こんな動物をうらやましがったりして!!しかし、これが人間の姿である。
 〈現代人が精神的におかしくなって、うつになったり自殺したりするのは、本来の人間の行動パターンとは異なる生活をしているせいに違いない。大昔のようにぐうたらな生活に戻れれば、多くの人はもっと幸せになれると思う。そうは言っても働かなければ生きていけない、とあなたは思うかもしれない。〉(本書より)
 なぜ働かなければいけないのか!!と、生まれたばかりの赤ん坊に聞いてみると、「食うため」と、答えるだろう。なぜ、食うために働かなくてはならないのか。働くことが好きだから、では答えにはならないだろう。
 〈多くの人がナマケモノになれば、世の中のシステムも変わらざるを得ず、人々はいまよりも幸せになると思う。それまでに人類が滅んでいなければ、の話だけどね。〉(本書より)
 その昔、若者の間で流行したのは、さすがに木にはぶらさがらなかったが、ヒッピーとかいって、ぐうたらな生活をしだしたものだ。働いている人間をみて笑ったものであった。男も女もヒッピーになって、街の路上でぐうたらぐうたらしていた。その内に、木にでもぶらさがるのだろうかと思っていたら、いつしか流行が去り、姿が消えてしまった。
 〈目標や目的に縛られた人は言ってみれば未来のために生きている。現代人の「いま」という時間はいつも未来から犠牲を強いられているのだ。(略)未来の楽しみのために現在の苦しみに耐えているわけだ。つまり未来の楽しみと現在の苦しみはトレード・オフの関係にあるのである。だが、未来に楽しみが待っているなんて、未来がどうなるのかわからないこの現実社会ではまったく根拠のない確信である。〉〈そもそも未来の楽しみのために現在を我慢できるのは、自分の時間がまだまだあると思っているからだ。〉(本書より)
 「いまでしょ」という流行語が生まれた。「それは、あしたでしょう」ではなく、「いま」でしょうである。「いま」とは、年寄り言葉である。年寄りには「いま」しかないからだ。若者の間でも流行している。若者は「いまなんか、どーでもいいのだ」。楽しみは未来にとっておくべきだ。まんじゅうを最初に皮の部分だけたべて、一番最後に、アンコを食べる。それが未来の楽しみと、いうものである。







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