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評者◆添田馨
“巨人感覚”の復権――巨人的なるものの考察(3)
No.3156 ・ 2014年04月26日




■ずっと若かった時分の記憶に、埋もれるままに捨て置かれたある異常な感覚があったことを、いま私は思い出している。自分の身体が不思議な全能感とともに突如として世界大に拡散していくような感覚。それを私は“巨人感覚”と密かに呼んでいた。畏れというものが跡形もなく消え去る、それは爽快な体験でもあった。行動を熱く予感させてやまない痺れるような感覚だった。
 だがこの心的現象の閾値には、得体の知れないダイモンが宿っていることに、その後、私は気付くことになる。最近では震災の津波の映像を見てそれの実在性を再確認することになった。ひとことで言うなら、それはマグマのように、普段は地下深く隠れてはいるものの、ひとたび時が至れば火山となって噴出するところの、人間内部に等しくインプットされた存在的な忿怒のメカニズムのことだ。自分の意識上の身体が急激に膨張していくようなこの感覚は、実は、地上のすべての知恵や能力を結集しても到底太刀打ちできない巨大な暴力を前にしたとき、他ならぬ自分が著しく損傷されてしまいかねない最終の危機感においてだけ顕現する意志のコントロールを超えた機制なのだろう。
 ベンヤミンの言う「神的暴力」の発現とは、人を人のままで神の位置にまで上昇させる超越的な力のことであった。エレン・イェガーの巨人への変身とはまさにそのことを含意しているように私には見える。また「青き衣の者」となったナウシカが、巨神兵つまり巨人を我が息子として、はじめて世界の側から押し寄せる圧倒的な災厄、かの理不尽な「神話的暴力」に立ち向かえる道理も、まさにこのようなモチーフに発しているのだろう。
 そこで改めて自問する。いま私たちに本当に必要なのは、これら巨人化した者たちの、人間のレベルをはるかに超えた言葉の感覚なのではないか。小人たちの言葉の氾濫する時代に、殊の外その復権を私などは希求するのである。







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