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評者◆岡一雅(MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店)
新たな武士像を大胆に描き出す
戦争の日本中世史――「下剋上」は本当にあったのか
呉座勇一
No.3155 ・ 2014年04月19日




■もしあなたが「中世の武士」について聞かれた時、どういったイメージを思い描くだろう?
 日本史の授業を覚えていたら、源平合戦や鎌倉幕府が出来た経緯、南北朝時代に現れた悪党の働きから、乱世を勢力拡大のチャンス! と捉え、新しい時代に勇躍する姿か。
 しかし、果たして中世の武士とはそのような存在だったのだろうか? 本書では、戦後歴史学の枠組みとしての「唯物史観」・「階級闘争史観」から中世史を解き放ち、近年の研究成果を踏まえながら、大胆に新たな武士像を描き出した。
 それは、南北朝の内乱による中央の政情不安定と全国規模での戦争状態の長期化、その結果負担する軍費の増大、当主の従軍によって生じる所領経営の不安定化と、他者に所領を奪われる事態に苦慮する姿だ。
 曰く、出陣前に嫡子を指名するだけでなく、嫡孫や嫡子の兄弟へ均等に所領を分け与え、後継者のスペアを多く確保する。「集団的自衛権」として一揆契状を近隣領主と締結する。場合によっては自身が所属する大将からの出陣要請をすんなり受けない・出陣しても戦わずに帰ってしまう等々。
 「御恩と奉公」という極めてシンプルな上下関係が満足に機能しなくなったこの時代、彼らにとって「下克上」の発想で積極的に所領拡大を狙うより、「サバイバル」に徹すること、文字通り「一所懸命」に生き抜くことが最大の関心事だった。
 後半は、室町三代将軍義満がもたらした南北朝内乱終結による束の間の平和を「戦後」、義教・義政の将軍権力強化という理想を「戦後レジームの脱却」に例えながら、室町幕府体制の盛衰について語る。
 強引な政治手法を取りながらも、自身の持つ力の限界を理解し、「室町の平和」の下、室町幕府絶頂の時代を築いたリアリスト・義満。
 一方、自らの力を過信した義教は、「犬死」と酷評されるあえない最期を遂げる。その後を襲った義政もまた、幕府内部のパワーゲームに興じるあまり、大きな墓穴を掘ってしまう。10年もの間続き、京都を荒廃させた応仁の乱である。
 将軍権力の強化を目指した結果、幕府を根幹から大きく揺るがし、再び全国規模での戦争の時代を招来させてしまったのは、何とも皮肉な話だ。冷徹なまでのリアリズムの有無が、彼ら自身の運命と時代を大きく左右した。
 キーワードを暗記するタイプから、様々な史料や出来事を突き合わせて思案する形へ、歴史の学び方を少し踏み込んで理解出来る一冊。
 中世史に興味がある人は勿論、「授業で日本史を学んでそれっきり……」という人にも是非読んで貰いたい。







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