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評者◆伊達政保
カルチャー・オンザ・ウェッジ――原発事故後の人々の生活の記録、苦悩の歴史 豊田直巳・野田雅也監督のドキュメンタリー映画『遺言――原発さえなければ』
No.3155 ・ 2014年04月19日




■30年以上も前、レバノンやシリアのパレスチナ難民キャンプで出会い、オイラたちドキュメンタリー映画監督布川徹郎のグループと行動を共にした気弱で心優しい青年豊田直巳は、紆余曲折を経て、劣化ウラン弾問題やチェルノブイリ原発事故を取材するフォトジャーナリストになっていた。
 2011年3月11日東日本大震災、福島第一原発事故後の3月12日、彼と野田雅也の二人のフォトジャーナリストは現場に駆けつけ取材と撮影を開始した。そして2013年5月までの800日間、250時間に及ぶ映像の記録を日本映画大学教授安岡卓治の手を借りて編集し、豊田、野田共同監督によるドキュメンタリー映画『遺言――原発さえなければ(福島の3年間‐消せない記憶のものがたり)』として事故三年目に公開された。
 この映画は、一章汚染、二章決断、三章避難、四章故郷、五章遺言、と分かれていて、3時間45分の長さを全く感じさせない、もっと長くても良いくらいだ。なぜならそこに描かれているのは原発事故後の人々の生活の記録であり、苦悩の歴史であるからだ。それが同時代の記録として見るものに訴えかける。それは完結することなくこれからも続いてゆく。映画も完結することなく続いていくだろう。あえて言うならこの映画はドキュメンタリー映画ではなく記録映画なのだ。
 登場する「計画的避難地区」に指定され、村人全員が退去した福島県飯舘村の人々、原発事故放射能汚染により土地を使用出来ない酪農家の長谷川健一とその家族、スイスに酪農研修に行った高橋日出代、酪農家の志賀正次、田中一正、菅野隆幸等の人たち、そして彼らに取材する豊田直巳。取材者として禁じ手だとは思うのだが、人々の境遇に共感するあまり、どうしていいか僕らにも分からないと泣きじゃくる。いかにも豊田君らしい。パレスチナ難民キャンプの人々の姿と重ね合わさってしまったのかもしれない。そうした彼だからこそ、人々はカメラの前で素の姿を見せる。そうした中、長谷川氏の酪農仲間の菅野重清氏は堆肥小屋で自殺してしまう。壁には「原発さえなければ」との遺言を書き残して。残された人々はそれでも生活を立て直そうと、少しずつ苦闘の歩みを始めていく。
 大震災・原発事故から三年が経った。復興はいまだに遅々として進まず、政府はまるで事故がなかったかのように原発再稼働や原発新設を推し進めようとしている。震災や原発事故により避難民となった人々は、忘れ去られ切り捨てられようとしている。まさに棄民だ。国ばかりでなく反原発運動の側も、政治的に翻弄されこうした人々を忘れているような気がする。みなこの映画を見るべきだ。







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