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評者◆秋竜山
曲がりくねる、道も川も人生も、の巻
No.3154 ・ 2014年04月12日




■岩本素白著・早川茉莉編『素湯のような話――お菓子に散歩に骨董屋』(ちくま文庫、本体九〇〇円)という本を見つけた。今頃か、ということか。〈二〇一四一月十日、第一刷発行〉ということだから。書店で目立たないということもないだろうに。
 〈酒は飲まず煙草は吸わず、碁も打たず将棋も指さず、謡も謡わず茶も立てぬ、世間的に云えば無趣味極まる男である。暇さえ有れば独り杖を曳いて気侭に歩くだけの事である‐、繊細かつ鋭敏な感覚を持って文学の世界に遊び、独り歩くことを好んだ素白先生。(略)解説、伴悦/山本精一〉(裏表紙オビ)
 この文章を目にする限りにおいて、「ずいぶん変人な先生だなァ」と、思う人もいるだろう。しかし、昔から、変人は可笑しい。変人でなかったら、なんともない人物だ。超変人となると一流人という資格のようなものをもつようだ。素白先生もそう見ると面白いだろう。酒は飲まないというが昔はよく飲んだ。煙草もやっとやめられた。碁など一度も打ったことはない。知らないからだ。将棋だって指すと必ず負けるから指さないのは当然だ。勝ったよろこびを知らない。謡も謡わない。謡のていをなしていないからだ。ひとりでいる時は口ずさんだりする。茶も立てたこともない。これらを世間的に云えば無趣味ということになる。と、いうけど、変人でもなんでもなく、こーいう人は普通人である。暇さえ有れば独り杖を曳いて気侭に歩くだけの事というけれど、暇さえあれば居ねむりばかりしている。足を使わなくてはいかんからといって散歩というより、歩いて足腰の運動だろう。なんて、いいかたは、ちっとも面白くない。やっぱり、このオビの文章は面白く笑える。笑えたらしめたものである。〈一八八三‐一九六一〉国文学者で随筆家で散歩の達人という。私は本書の中の〈日本文学に於ける漫画の創始〉が興味があったから、まずこれから読み始めようとページをひらいた。ところが、最初のほうのページに〈第二章 素白好み 川は、みな曲がりくねって流れている〉と、いうのがあり、「そーいえば、そーだ。川は、みな曲がりくねっている」と、これも一つの発見のような。あたり前の発見というか。わすれていた!!と、いう思いがある。〈白子の宿――独り行く、二〉では、
 〈川は、みな曲がりくねって流れている。道も本来は曲がりくねっていたものであった。それを近年、広いまっすぐな新国道とか改正道路とかいうものが出来て、或は旧い道の一部を削り、或は又その全部をさえ消し去ってしまった。走るのには便利であるが、歩いての面白みは全く無くなってしまったのである。〉(本書より)
 昔は、道といえば曲がりくねったものであった。自然にあわせて道路をつくると曲がりくねってしまうのである。それが道というものだと思っていた。クルマもその曲がりくねった道にあわせるようなスピードしかでなかった。曲がりかどから急にバスが飛び出すといようなことはなかった。バスは曲がり道にさしかかると必ず「プープー」とか「パーパー」とか音を発して合図をした。その音で、曲がり道の向こう側の人は「バスがやってくるぞ」と、気づくのであった。道路がまっすぐになるとクルマのスピードもあがった。そして自然風景の中の、のどかさが消えてしまったのである。







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