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評者◆鈴木慎二(BOOKS隆文堂)
深化を重ねてきた歴史家の新書
〈つながり〉の精神史
東島誠
No.3154 ・ 2014年04月12日




■著者の名前を知ったのは、著者の読者の方々には本当に不勉強を笑われそうだが、昨年開催させて頂いた東京大学出版会さんの「学問の入口」フェアの中で著作が選書されていたことからだった。『公共圏の歴史的創造』(東京大学出版会)と『自由にしてケシカラン人々の世紀』(講談社選書メチエ)の二冊。フェア開催時には内容については殆ど関心がなかったが、思わぬところから関心を寄せることになった。
 與那覇潤さんの『中国化する日本』(文藝春秋)が話題になっている時で、太田出版のMさんから「新刊で與那覇さんの本が出るのですが、ゲラお読みになりますか」とすすめて頂き、『日本の起源』のゲラを読んだ為である。與那覇さんの単著かと思ったら、対談集だったことに驚いたが、著者の名前は覚えていたので、あっ、フェアで選書されていた方だと。與那覇さんへの関心から読み始めたゲラだったが、二、三回読み返すうちに、対談相手の著者の方への関心が次第に湧き上がってきた。音楽(シベリウス)、思想(丸山眞男、サイード)などへの造詣の深さや、與那覇さんが心から尊敬している方というのが伝わってくる対談だったから。
 この本を手にしたのは、日本史に疎い私でも新書判でなら読み進めていけると思ったからだが、誤りだった。読了感が湧いてこないのだ。最初は幸田露伴、小野梓、田岡嶺雲といった人名を追いながら読んでいった。二度目はⅢ章からⅤ章を読んで、気になる語句を〈交通〉(石母田正の交通概念が重要)、〈江湖〉(公に問いかける)、〈公共〉(パブリックではなくインパーシャル)など拾ってはみたけど掴めない……。どうしてと思って別の著作二つにも目を通してみると、『自由ににてケシカラン人々の世紀』のあとがきにこういう文章を見つけたとき、自分では読了感の湧かない理由がちょっとわかった。「結論を提案することよりも、講義する学生(読者)に結論は選び取らせることにしている」。
 だが読了感の湧かない(おそらく博識の割に、名前や著作が知られていない要因とかぶる)最大の要因は、著作だけではなく、共著や、余り読むことの出来ない媒体に書いた文章も、著者の歴史学体系の一部となっている為、これに目を通さないと、掴めないことだろう。単著の三冊だけでは、著者のことが理解できないと思った私は、休日珍しく図書館に行き、論文を執筆した本の何点かに当たってみた。『歴史と方法1』(青木書店)、『丸山眞男』(河出書房新社KAWADE道の手帖)、『公共哲学15』(東京大学出版会)だけだったが、最初期の『歴史と方法1』に寄せた文章から考え方のスタイルが全く変わっていないこと、最初の本から二冊目の本が出るまでの十年間に、学生又は読者に伝えるやり方は少しずつ変化させてはいるけれども、江湖(広く世に問う、中心化しない都市性の発見)から二十年ぐらいの深化を重ねてきた歴史家ということを、門外漢の私が追いかけるほど魅力的な文章の持ち主ということを理解して頂ければと願う。
 最後に、今年は丸山眞男生誕百年でもあるし、東島誠が『忠誠と反逆』(ちくま学芸文庫)を考察した文章の末尾から(『丸山眞男』KAWADE道の手帖)、引かせて頂く。
 「眼前の具体的なテキストに日々対峙している人。場合によっては『カキ』が船腹に付着するように事実にへばりつくことさえも辞さない読者にはきわめて刺激的な書物である」。この文章そのまま東島誠の著作群に献上したい(願望ですが、思想関係の版元の方々、丸山眞男に関する文章、東島誠にもっと書かせませんか)。







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