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評者◆秋竜山
笑いとはすべて他人事、の巻
No.3152 ・ 2014年03月29日




■外山滋比古『ユーモアのレッスン』(中公新書・本体七四〇円)を読む。笑いに関係してくるとあらば、無視することはできない。しかし、〈笑いについて〉とか、とかく〈ついて本〉ほど、面白くないものはない。専門的になればなる程、面白くない。ましてや、定義本となるとよけいにそーだ。
 〈「ユーモアに限らないが、ものごとを定義するのは、たいへん難しい。○○とは何かというのは大げさにいえば、ギリシア的問いです。哲学的考察が必要になります。文法の〝文〟とは何かを問題にして、ドイツの学者が大冊の本を書いたという例もあります。なにがユーモアかは、〝文〟とは何か、よりもはるかにやっかいでしょう」〉(本書より)
 よく〝笑〟と、いう文字にユーワクされて、飛びつくが。笑いというから笑わせてくれるだろうと思うと大間違いである。笑いについて、の講義ほど面白くないものはない。これに向きあうには格闘技のカクゴがなくてはならないだろう。まず、こっちは居眠りとの闘いである。たとえば、落語は笑わせるものである。ところが、落語について、は笑わせるものではない。と、いうことだ。本当は、笑わせながら講義がすすめられればよいのであるが、そーいうものではないようだ。〈最高の指南役が奥義を伝授する〉(オビ)のであるから本書とは格闘することもない。
 〈――「ある講演会で、女性の生き方が論じられました。その中で、講師の桶口恵子さんが、
 老婆は一日にしてならず
というしゃれをいいました。とたんに会場はどっと爆笑につつまれてしまいました。そのときの話のこまかいことはみな忘れてしまいましたが、これだけはいまも鮮明に覚えています」「ローマは一日にしてならず、という有名なことばです。」〉(本書より)
 この文章の中で私の面白かったのは、〈そのときの話のこまかいことはみな忘れてしまいましたが、これだけはいまも鮮明に覚えています〉と、いうことだ。こういうことっていっぱいある。一箇所だけ切り取ったように記憶している。昔の映画などによくある。どのような内容であったか全然覚えていないのに、ワン・シーンだけが脳から消えていない。いつかは消えるだろうと思っても消えない。なぜ、だろうか。そんな面白いシーンでもなかったのに。
 〈〝なにごとによらず、他人におこることならなんでもおもしろい〟――そういうことばもある。どんなひどいことでも、わが身にかかわりのない、ひとごとならば、笑っていられる。〉(あとがき)
 身内のことは笑えないが、他人のこととなったら素直に笑えてくる。つまりは、笑いとは、すべて他人事なのである。テレビがすたれることはない。それは、テレビには他人事ばかりがうつし出されるからだ。笑っていられるからである。ワイドショーなどは、他人事のお笑い番組だろう。
 〈ユーモアは単なる笑い、滑稽、ひょうきんとは違うもので、そこに〝ペーソス(哀しみ)〟の要素が混じる複雑できわめて矛盾に満ちたものがある。〉(本書より)
 ユーモアがわからないことを野暮という。「野暮で悪かったな!!」と、いう言葉もある。







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