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評者◆秋竜山
人を煙に巻く〈種をまく人〉、の巻
No.3151 ・ 2014年03月22日




■「農民画家」と、いったら「ミレー」だろう。そして「ミレー」と、いったら「種をまく人」だろう。「種をまく人」と、いったら「山梨県立美術館」だろう。それほど一般的に有名である。それぐらいのことは誰でも言えるだろう。と、いうことは、それ以外のことは言えないということだ。わからないからだ。井出洋一郎『「農民画家」ミレーの真実』(NHK出版新書、本体八二〇円)を、読む。かなりわかってきた。山梨県立美術館など、誰も知らなかった(と、思う)ところが突如として、その名をとどろかせたのだった。「とにかく、すごいらしい」と、いうことしかわからなかったのである。
 〈一九七〇年代、アメリカ経済は今や懐かしい響きのスタグフレーションに陥って物価高と不況に見舞われる。《種をまく人》をプロヴィデント・ナショナル銀行が手放したのが、一九七七年四月、ニューヨークでのサザビーズのオークションであった。唐突の感があったが、銀行としてはやむをえなかったのだろう。結局日本の「ミスター・ミレー」こと飯田画廊の飯田祐三社長が争奪戦を制して三〇万ドルで落札し、そのまま同年、山梨県が一億七〇〇万円で購入。同時に《夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い》(128ページ、図43)もペンシルヴァニア美術アカデミーが手放したものを山梨県が七五〇〇万円で購入し、現在の「ミレー美術館」としての県立美術館の基礎が固められた。まだ一ドルが三〇〇円近い、海外ブランドの超高値時代だった。(略)こうして旅を続けた《種をまく人》は、一九七八年の山梨県立美術館の開館により、山紫水明の山梨県に終世の住まいを見いだした。〉(本書より)
 「なんだか、よくわからないが、すごい画らしい」という評判で、全国からおし寄せた。当時、ヤジ馬に元気がみなぎっていたから、ひと目見ようと、出かけていったものだ。今は、そんな元気など、どこかへ行ってしまったようである。だから、今の若い人にその当時の元気ぶりを語ったところで、まずわからないだろう。あの頃、世界の名画を日本で見ることができるなど、まず見なけりゃ損だという風潮があった。近所のおじちゃんやおばちゃんなどは、わけがわからないままに押しかけた。みんなが行くから俺も行く!!と、いうたんなるヤジ馬であった。わんさと押し寄せたヤジ馬たちは、結局は人の頭しか見ることができなかったということだった。それでも、それなりに満足していたようだった。今は、そんな世界の芸術作品にもあきぎみであるようだ。あの単純なヤジ馬の人たちとくらべて、今の人たちは利口になってしまった。かしこくなってしまったというべきか。どんな芸術作品が日本へやってこようが、「別に……」ってなもんである。〈種をまく人〉を、日本人的にはじめて見た時、どんなことを考えるだろうか。「なんだ、本当にこれが種をまいているのか!」と、いうことだろう。〈小麦〉か〈蕎麦〉の種をこんなまきかたをしていいのか。私も子供の頃は、畑で小麦と、大麦とかさまざまな種まきをさせられたものだが、種というものは、一つぶ地面に落とすと一つぶの芽が出るものである。この絵のようにふんぞりかえって種をバラまいたら、どーなってしまうか。これが日本の田吾作の種まきの考えである。それにしても、ビックリした絵であった。







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