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評者◆秋竜山
『あまとりあ』って知ってます?、の巻
No.3149 ・ 2014年03月08日




■残念でならないのは、今に思えば。昔の雑誌、週刊誌類をゴッソリ買い集めておけばよかったのに。捨てずにとっておけばよかったのに。古書店などへ行くと、昔のそんな古本が置かれてある。ほしくてたまらない。ふところと相談もできないほどの高値である。あの当時、そのことに気づけばよかったのに、なんて思ったりするが、あとの祭り。数え切れないほどの子供の月刊漫画雑誌のなかから一冊、親に買ってもらうのにやっとであった。誰かが買ったのをみせてもらっていた。みんなそうだった。まわし読みして表紙もとれているのは当たり前で、それでも、雑誌名はわかったものであった。出久根達郎『雑誌倶楽部』(実業之日本社、本体一六〇〇円)では、あの頃のなつかしい雑誌が選ばれている。
 〈誰が名づけたのか、雑誌とは、言い得て妙である。種々の記事が詰まった冊子。雑には、荒っぽいという意味もある。選りすぐったものでない、そして磨きをかけてない、言ってみれば掘り出してきたばかりの泥のついたままの大根や人参、里芋である。〉(本書より)
 雑草のようなもの、いや、ちょっと違ったかな。
 〈わが家には、いろんな月刊誌があった。講談雑誌と呼ばれていた、大衆小説誌が多かった。私はこれらの雑誌で、世の中の仕組みを知った。大衆誌は、総ルビである。小学生でも読めた。正しい意味はわからない癖に、大人の秘密にいっぱし通じた気になった。人間を学ぶには雑誌が一番である。〉(本書より)
 まだテレビなんてなかった。ラジオだけであった。田舎の裸電球の下。天井が真っ暗であった。どこの家にも大人の雑誌などあるわけがなかった。それでも若いもののいる家では一冊か二冊が部屋の隅っこにあった。助平な本であったりして子供にみられては困るためだ。子供というものは、かくしてあるものをさがし出す天才であったから、親の眼を盗んでこっそり読んでドキドキした。学校教育よりも重要なことが書かれてあって、勉強になったものである。「あまとりあ」という雑誌があった。〈性交は芸術なり〉なんて、まさに大人世界であった。
 〈『あまとりあ』ひらがなで記されている。英語なのか、日本語なのか。一体、何の意味だろう。昭和二十八年四月号。首をかしげながら、表紙をめくる。表紙裏に、この雑誌の版元「久保書店」の、新刊案内が出ている。フランク・ハリス『わが生涯と恋愛』、そしてマックス・ホワイトの『アンナ・ベッカー』の二冊である。前者の紹介文に、「著者の語る、性の遍歴は類書に見ぬ程生々とし」とあり、後者には、「孤独な男女を結合させた大いなる力に人は石を投げて獣慾と呼ぶ」とある。〉(本書より)
 「あるす・あまとりあ」とは「性愛技術」「性愛指南」という意味であるという。当時、子供の私でも性という一字でコーフンしたものであった。それにしても〈性交は芸術なり〉とは、よくいったものだ。なんでもかんでも芸術にしてしまえばよい。考えてみれば、芸術という言葉もわかったようなわからんような。ホントくさいようなウソくさいような。術というと忍術使いを思い出す。芸の忍術使いということか。それにしても芸術という言葉は強いのか、その言葉に弱いのか。不思議である。







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