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評者◆三島政幸(啓文社コア福山西店)
一家に2冊必携!? の幻の作品、ついに復刊!
生者と死者――酩探偵ヨギ ガンジーの透視術
泡坂妻夫
No.3149 ・ 2014年03月08日




■全ミステリファン待望の「幻の作品」がついに甦った!
 このコーナーで復刊作品を紹介するのはやや反則かも知れないが、私の担当回は今回が最後なので、一度だけわがままを許されたい。泡坂妻夫『生者と死者』(新潮文庫)は、それほどの価値と意義のある大傑作である。
 昨年、あるラジオ番組で効果的に紹介されたことにより、泡坂さんの『しあわせの書』(新潮文庫)が再び脚光を浴びるようになった。ほとんど忘れ去られていた作品が版を重ね、書店の店頭でも平積みされた。『しあわせの書』は、その本を使って「マジック」が出来るという特殊な趣向があり、そこが再び注目されたのだ。
 『しあわせの書』の再注目はもちろん素晴らしいことだが、我々ミステリマニアにとっては、もう一つの「すごい趣向の大傑作」である『生者と死者』の復刊を望んでいた。だが『生者と死者』の復刊は簡単には出来ないことも分かっていた。それが、あまりにも特殊な造本になっているからだ。
 『生者と死者』の本を手に取ると、その特殊性にすぐ気づく。本全体が、ページ数にすると16ページ単位で袋綴じになっているのだ。人によっては製本ミスだと勘違いするかも知れない。だからだろうか、表紙には「取扱注意」の札がイラストで描かれている。その袋綴じになった状態のままで本をめくっていくと、短編小説として読める。短編を読み終えたら、袋綴じを開けていく。すると、長篇ミステリが現れ、元の短編小説が消えてしまうのだ。前代未聞というより、誰も思いつかないような仕掛けである。こういうのを思いつくのは、マジシャンとしても知られていた泡坂さんくらいだったろう。製本の困難さをクリアして、今回復刊されたことは実に喜ばしく、ぜひ多くの人々の手に渡って欲しいと思う。
 袋綴じというのは、それだけでも心躍らされる仕掛けである。ミステリには時折「読者への挑戦」のように作者から問いかけてくる作品があり、ごく稀に、それ以降が袋綴じになっていることがある。中には袋綴じを破らないまま返品すれば返金する、と謳っている作品まであるのだ(ビル・S・バリンジャー『歯と爪』創元推理文庫。なお書店での返金には応じていないので念のため)。この『生者と死者』では短編を読んだあと、その袋綴じを開けながら長編を読むことになるが、袋を破るワクワク感を何度も味わえるのも本書の醍醐味の一つだろう。あ、そういえば週刊誌のグラビアも袋綴じになっていることがあるなあ。それもまた心躍らされるものではあるが、それとこれとは別の話……。
 肝心のストーリーはどうだろう。私はもちろん『生者と死者』の刊行時に本書を読んだが、その際はこの空前絶後の趣向ばかりが印象に残ってしまい、どんな話だったかすっかり忘れてしまった。今回の復刊を機に改めて読み返してみたところ、ミステリとしてもなかなか面白いのだ。超能力のイカサマを見破る迷探偵ヨギ ガンジー(本書では「酩探偵」と表記されている)が、透視能力を持つという人物と対峙することになる。果たしてその顛末は……ヨギ ガンジーシリーズのレギュラー陣はもちろん、泡坂さんの他のシリーズのキャラクターも脇役で登場するので、そこを味わうのもいいだろう。個人的には歌手・加茂珠州子の名前に胸躍らされた。同じ気持ちになる方は、泡坂妻夫マニアである。
 仕掛けの面白さだけでない、計り知れない魅力を併せ持つ『生者と死者』。短編小説も読み返せるよう、2冊購入されることをお勧めしたい。







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