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評者◆熊谷隆章(七五書店)
相思相愛がたくさん詰まっている
47都道府県の純喫茶――愛すべき110軒の記録と記憶
山之内遼
No.3148 ・ 2014年03月01日




■本書は、著者がこれまでに訪れた純喫茶(奥付の著者紹介によると4000軒以上!)の中から、110軒を選んで紹介している。純喫茶とは、著者によると「純粋にコーヒーや紅茶などを提供するだけで、他の目的を持ち合わせていない喫茶店」のこと。もうひとつ、「個人経営の店」という点を付け加えることができるだろうか。「素晴らしい純喫茶があるのは、東京や大阪だけじゃない」という思いから47都道府県すべてをカバーしており、それだけでも純喫茶の全国ガイド本として貴重な1冊だと思う。しかし、本書の魅力は少し別のところにある。
 1店当たり1~2ページに、文章といくつかの写真。この文章が、店はもちろん、それ以上に人に寄り添って書かれていて、短いながらも非常に物語性が強く、読ませるものになっているのだ。友人同士の雑談や大切な商談、ひとりだけの読書の時間や待ち合わせ。あるいは、人生を変えるような告白の舞台。純喫茶を訪れる人の目的はさまざまで、毎日いろいろなエピソードが生まれる。コピーライターでもある著者は、丁寧に言葉を選びながら、取材の成果をうまくページに収めている。
 著者自らの撮影による写真も、何気ないもののように見えて、文章としっかり結びついている。オールカラーではないので、店によってはモノクロのところがあるのが少し残念だが、それでも雰囲気をよく伝えており、イメージがふくらむ。メニューやアクセス方法など、店に関する情報の掲載が最小限に抑えられているのは、「記録と記憶」を書き留めることをより強く意識した結果の選択なのだろう。珈琲の香りや店の空気が行間から立ちのぼるようで、まるで上質の掌編小説集を読んでいるような心地になる。
 ご主人が亡くなったあとを奥様が継いで守りつづけている店がある。東日本大震災で店が流されてしまい、一旦は諦めたものの、地元の人たちの声に押されて再オープンした店がある。町の大規模な再開発で激変した環境の中に残る店がある。つらい時、苦しい時に力を与えてくれるのは、お客様の存在だ。毎日のように通いつづけるかたもいれば、10年20年ぶりに地元に戻ってきて、店がまだ変わらずに開いていることを喜ぶかたもいる。本書には、そういった相思相愛がたくさん詰まっている。
 私が住む町にも純喫茶はあり、幼少の頃は母がそこに勤めていたこともあってよく通ったものだった。思えば、最初に親しみを感じた「大人の世界」だったかもしれない。
 「はじめに」に掲げられた著者の言葉から。
 「時に純喫茶は、昭和という過ぎ去った時代の遺物として、『昔はよかったね』と遠い目をしながら語られることがあります。しかし本書では過去に浸り追憶するだけではなく、純喫茶を通して現代を描き、未来を見つめていきたいと考えています。それぞれの純喫茶の成り立ちや開業の経緯などを追いかけながら、今を生きる純喫茶の姿を描きます。」
 純喫茶を営むという生きかた。ここに描かれた多くの姿から得るものは多い。







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