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評者◆秋竜山
人間をマンガ化させるお金、の巻
No.3147 ・ 2014年02月22日




■一円玉が歩道に落ちていたとする。私は、どーするか。「どーしようか」。ひろうべきか。それとも知らんぷりして通り過ぎるか。お金である。が、それが一円玉だ。りっぱなお金である。りっぱな一円玉である。もしかすると私は、ひろったりしないで、通り過ぎてしまうかもしれない。一円玉をそまつにすると、一円玉に泣くというが、ひろわないということは、そまつにするということか。せめて、十円玉、百円玉であってほしいものだが。
 お金は命より大事だという。お金あって命あり。命あってお金あり、か。たとえば、殺人事件。駆けつけた警察。テレビのドラマなんかみていると、警察官は、死体のふところを手でまさぐる。そして、サイフがあるかないか。そのサイフの中のお金はどーなっているか。お金はとられていない。それによって、事件の方向性が決まるのだ。無人島でのひとり暮らしの住人が死体で発見されたとする。警察官はその死体のサイフをたしかめる。ふところにあるかないか。無人島生活者、それもひとり暮らしだ。お金なんか必要としない生活である。しかし警察官は、サイフをさがし、サイフがなかったとしても、「とられていなかった」とつぶやき、「犯人は、金銭が目的ではなかった」と。そして、次の犯行目的を調べにかかる。お金は、人間をマンガ化させてしまうものである。林望・岡本和久『金遣いの王道』(日経プレミアシリーズ、本体八五〇円)は、〈経済人と文学者の金遣いを巡る対話〉と、いうことだ。
 〈今私たちは、二人で協力して一冊の本を作った。経済人同士が談義しての本や、文学者同士の対話の本というものは、かれこれ数多く存在してきたかと思うのだが、経済人と文学者とが「お金」を巡って対話したというのは、もしかすると本書を以って嚆矢とするかもしれぬ。〉(本書より)
 笑いの主役は人間である。ここで突然に笑いなんていいだすこともないのだが、お金というものは、人間を笑いものにしてしまうものだ。人間がお金とからむとどーしても、「笑い」になってしまうからである。つまり、お金の力によって、人間の本性がむき出しにされてしまうからだろう。
 〈まず、私たちは、まじめに生きてきた。人のものを私したり、人をだまして儲けたり、手抜きしたり、そういう不誠実なことをしてこなかったということがある。いつだって勉強にも仕事にも前向きに全力投球であったし、その生き方を変えようと思ったこともない。そうやって、こつこつとお金を稼いで来たばかりのことで、それだからこそ、そのお金を遣うのにも、一定のまじめな使い方があると信じる。そこが私どもに共通の信念なのであった。〉(‐林望謹んで序す‐本書より)
 お金というものは、まじめに接すれば、まじめに答えてくれるということではないだろうか。
 〈岡本・おカネって、それ自体に価値はないんですよ。単なる交換価値しかない。だけどお金でモノを買うと、「欲しいモノを買って嬉しい」という幸福感がわく。つまりお金と喜びを交換しているんですね。それがなければ、棺桶の中におカネを持っていく、みたいな話になりますよね。(略)〉(本書より)歩道に落ちていた一円玉。やっぱり、ひろうということにしておこう。







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