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評者◆添田馨
心臓を捧げよ!――巨人的なるものの考察(1)
No.3147 ・ 2014年02月22日




■ひとつのファンタジーが成功する場合は、その世界設定そのものがすでに重要な何ごとかを言外に語ってしまっている時だ。ストーリーの詳細を読まずとも、物語の舞台となる架空の背景を読むだけで一気に想像が広がり、心底わくわくする経験はこれまで何度も味わってきたものだ。近年では諌山創の大人気コミックス『進撃の巨人』が、まさしくそうだった。
 人類はある時、突如出現した天敵「巨人」によって滅亡の淵に立たされる。そこで巨人の侵入を防ぐための三重の防壁を造りあげ、その内側でだけ平和と安寧の日々を過ごすようになる。しかし壁が造られて百年経ったある日、これまで誰も想像していなかった超大型巨人が出現して壁を破壊。そこから多数の巨人が再び侵入を開始。人類は為すすべなく彼等の餌にされていく……。
 と、およそこのような設定なのだが、真に驚かされるのは、防壁とそれをも越えてやってくる未曾有の災厄としての巨人という構図が、震災後の私達の姿のシリアスな暗喩ともなっていることだ。私達もまた、人知をはるかに超えた災害の前に立たされて、茫然と手を拱くしかなかったではないか。
 また巨人の性格とて決して一様ではない。彼等は超自然的であるだけでなく、どこか人工的でもある。そしてこの釈然と割り切れない感じは、巨人が理由もなく人間を食らうだけの存在だというグロテスクな設定によってさらに増幅される。本来、自然の富を食べることで生き長らえてきた人類史の完全な逆転がここには生じているのだ。つまり人類はここでは巨人にとっての即物的な“非有機的身体”にまで貶められているのである。
 無論、本質的なドラマはこうした希望のない世界で、それでも生き残るために人間が織りなす様々な葛藤のなかにしか生じない。「心臓を捧げよ!」筆者が本作の神髄をこの一語のうちに見出すそれは最終的な根拠でもある。







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