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評者◆秋竜山
「居眠り物語」の映画化を!、の巻
No.3145 ・ 2014年02月08日




■貴田庄『小津安二郎と「東京物語」』(ちくま文庫・本体七〇〇円)を読む。
 小津安二郎の「東京物語」を、外国人がわかるという。熱烈なファンだという。ホントにわかるのだろうか。日本人ならともかく、外国人が理解できるとなると、かつて田舎などのごちそうだった田舎寿司がうまいといわれたような複雑な気分になってしまう。簡単にわかってたまるかという。一九五三年十一月に封切られた。あの時代、私は少年時代であった。少年の眼で大人の世界をながめていたことになる。少年の眼でみた大人の世界って、よくわかったようなわからないような。今になると、やたらと、なつかしい。そして、「東京家族」。小津安二郎の「東京物語」をモチーフに山田洋次監督がカラー作品化している。橋爪功、吉行和子。笠智衆、東山千榮子と、くらべながら観るたのしさがある。どっちも、その時代に生きている老夫婦を演じている。「なるほど、こーいうことになるのか」と、それぞれの味をたのしむ。「東京物語」での熱海海岸の防波堤の場面は、少年の頃、あの場所で遊んだもんだと、もうこの場面だけでこの映画の価値は充分だと思える(私の映画評とはこの程度のものである)。
 〈「東京物語」の撮影は熱海ロケをして、完了しました。防波堤に旅館の浴衣を着た笠智衆と東山千榮子が座って、話し合うシーンです。〉(本書より)
 映画でのこの場面のことである。あの防波堤も今はない。今は、まったく昔のおもかげもない。あの頃の熱海海岸と、今の熱海海岸、別物のような風景である。「東京家族」では、熱海の海岸場面を山田洋次監督がどのようにとらえるのかたのしみの一つでもあった。ところが、熱海は出てこなかった。熱海が横浜と変わってしまっている。もちろん、東京物語での熱海海岸での防波堤の上で東山千榮子の立ちくらみがしてしゃがみ込むシーンもなかった。それでも、横浜で吉行和子が、立ちくらみの名場面を演じている。本書で面白く興味深かったのは、
 〈野田の話す茅ヶ崎館での仕事ぶりでした。(略)茅ヶ崎では昼寝ばかりしていた。昼寝して飯食うと又すぐ寝る。グーグー寝ちゃう。時によると昼寝もしたし、飯食っても寝たし、斉藤良さんが隣りの部屋から来てばか話をすると又寝る。一日のうちにほんとうに起きているのは八時間ぐらいで、あとは全部寝ている。そうするとそのうちだんだん寝られなくなる。昼寝は相変わらずするが夜床にはいると寝られない。何となしに昼間ぼんやり考えていると眠くなってしまう。床に入ると寝られない。そういう状態になって来るとはじめて書ける。〉(本書より)
 小津と野田の共同執筆による脚本である。寝てばかりいながら、ちゃんと、それも一流の脚本ができあがるのだから、ちっともあわてることはない。ある本で、寝た後に「ひらめき」がうまれるものだと書いてあったが、あの「東京物語」は寝たり起きたりしている中からうまれた「ひらめき」であるから、本物だ。凡人にはマネできないだろう。「居眠り物語」として映画化されないだろうか。その映画を観ながら観客も居眠りしていたら、これぞ、この映画のダイゴミということか。体感したい気にもなってくるではないか。







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