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評者◆秋竜山
ヒトの余分な半分の顔、の巻
No.3143 ・ 2014年01月25日




■池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」――または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義』(講談社ブルーバックス・本体一二〇〇円)。歌の文句のようなタイトルである。そして、タイトルでわかったことは、脳というものは、単純がお好き!!だということであるらしい。それにくらべると、ヒトは複雑を好む。複雑を好むヒトに対し、「あなたは単純ね」とはいえないだろう。ケンカをうるようなものだ。
 〈脳は顔に敏感なんです。ところが、顔全体をじっくり隈なく見ているようで、実際には、顔の半分しか見ていない。左側だけです。左側さえ男だったら、右が女であっても、全体を男だと思っちゃうんですね。(略)それは脳が左右対称ではないからなんです。形はほぼ左右対称ですよ。でも機能が違う。左脳には、ウェルニッケ野やブローカ野などといって「言語野」がある。だから、言語は主に左脳がつかさどる傾向が強い。脳が支配する体側は左右交差しますね。だから人の顔を見るとき、左の視野で見たものは、交差して右脳に届きます。これでおわかりですね。私たちが見たものを判断するのは「左側の視野が中心」。〉(本書より)
 脳は顔なんてあまり興味はないというのだろうか。半分しか見ないで、全体を見たことにしてしまっているのである。
 〈顔なんてどうせ半分しか見てもらってないんですよ(笑)。相手から見て左側の視野、つまり自分の右顔だけ〉(本書より)
 半分だけしか見ないで、それで全体を見たことにしてしまう脳の考えようによっては、ゴーマンなめんどくさがり屋、顔半分見れば、全部わかってしまうなど、さすが脳だ!!と、いいたい。だとしたら、脳からすれば、ヒトの顔は半分あればよいということになるだろう。ヒトは、余分な半分の顔をつけていることになるのだ。
 〈モナ・リザが笑っているのは、そう、絵の向かって右側なんですよ。左半分は、むしろ神妙な顔つきをしていますね。だから絶妙なんです。ぱっと見では必ずしも笑っていませんが、でも、じっと見ていると、「そう言われてみれば、笑っているような気がしないこともない」という不思議な感覚がするんです。〉(本書より)
 モナ・リザはヘンテコな顔であり、それをダ・ヴィンチは見のがさずに描いた。ダ・ヴィンチは、どのような思いで描いたのだろうか。「まともな顔ではない」と、思ったに違いない。芸術の原点はまともではないということである。
 〈だぶん、ダ・ヴィンチはこの効果を経験から知っていたんでしょうね。それでこういう名画を残したんだと思います。モナ・リザは、脳科学的に見ても、第一級の傑作だと私は思います。〉(本書より)
 「神秘のほほ笑み」といわれ「謎の微笑」といわれたモナ・リザの顔は右側しか笑っていない。左側は、しかめっつらである。モナ・リザの絵でわかったことは、ほほ笑みというのは神秘性を必要とし、微笑というのは謎をふくんでいなくてはいけないということだ。では、モナ・リザの左右の違った表情のどっちが好きか? なんて、考えてしまう。ヒトは右といえば左、左といえば右を好むものである。脳は単純を好み、ヒトは複雑を好む。モナ・リザの絵を、もう一度じっくり時間をかけて、ながめてみる必要があるかもしれない。







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