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評者◆澤登翠
存在の起源すらも感じることができる『星の王子さま』は〝究極の文学〟――澤登翠、サンテグジュペリ、小島俊明のコラボで紡ぎ出される朗読世界
星の王子さま 澤登翠朗読CDブック
アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ著、小島俊明訳、澤登翠朗読、湯浅ジョウイチ音楽
No.3143 ・ 2014年01月25日




■平成二五年度文化庁映画賞・映画功労部門を受賞した活動弁士の澤登翠氏が、サンテグジュペリの『星の王子さま』を朗読。刊行七〇周年にあたる二〇一三年に、日本初の全文朗読CDブックとして発売された。
 「『夜間飛行』など、もともとサンテグジュペリは好きな作家で、彼の文学と人生には魅かれるものがありました。私の活弁を気に入ってくださっていた編集担当者からCDブックの話があったときは、私にできるかな……と思いました。映画を語るのと本を語るのとでは、対象に対する距離の取り方が違うからです。しかも『星の王子さま』の完訳でとても不安でした」
 決め手になったのは、翻訳の素晴らしさだった。「小島俊明先生の日本語は、本当に言葉を失うくらい感動的で素晴らしいと思いました。生涯このような機会はないと思ってお引き受けしました」
 今回の訳書を通じて、印象も変わった。「過去に抄訳で読んだとき、王子さまの印象は、サンテグジュペリ本人による絵も含めてかわいらしい詩人でした。しかし、とても深い叡智の持ち主でありながらも、王子さまが抱えている孤独の深さに気付きました。そして人間は、植物、動物、無生物、微細な菌類などの自然や宇宙に囲まれているにもかかわらず、人間社会にあまりにも囚われすぎているということにも思い至りました」
 読解の錘鉛はさらに深部へと降りていく。「宇宙が誕生してから人間が生まれてくること、私たちの存在そのものの起源すらも感じることができました。とても多面的、多重的で、さまざまな色彩や音に満ちている。それが一つの物語に結晶すると、とても澄み切ったものとして表出してくる」と驚きを露わにした。
 録音に際して、サンテグジュペリの写真集などの資料や、ほかの小説も読み込んだ。「彼は絶えず死の危険にさらされる飛行士でもありました。『南方郵便機』を読み返すと、暴風雨の中、ぎりぎりの燃料で雲の上を目指して上昇を続ける描写、極限状態における精神と身体の表現がすごいと思いました。こうした読み込みの過程がとても楽しかったですね」と振り返る。
 特に難しかったのは、王子さまが棘のある花と別れる場面だった。「悲しいというか、切ないというか、涙が出てしまってとにかく困りました。もう一度録音しようかとも思いましたが、二度と同じようにはできないと思って、そのままにしました。この場面はサンテグジュペリの奔放な妻コンスエロとのことが投影されているのかもしれませんね。愛の難しさを感じます」
 非常に有名な物語であり、文章自体もとても分かりやすい。しかし朗読に耳を傾けながら、作品世界に思いを馳せると、そこに漂う不思議な感覚を味わうはずだ。「一般的には清らかで美しい場面が読みどころになっていると思いますが、神秘なものがあり、分からないところがある……そこがいい。小島先生は詩人でもいらっしゃるので、鋭い感受性が訳に反映されています。サンテグジュペリと小島俊明という詩人が出会って生まれた完訳だと思いますね」
 澤登氏は、『星の王子さま』を「究極の文学」と評した。「人が空を飛びたい――今あるところではない、想像力の世界の中にある異次元に浮遊することができたら――というのは誰もが多かれ少なかれ思ってきたこと。憧れですね。違う星からやってきた王子さまは、私たちの感受性とは近いけれど独特なものがある。そんな不思議な王子さまに、憧れを感じます。不思議なものって憧れるでしょう? 飛行士はすっかり王子さまに魅了されている。一生忘れないでしょう。だから砂漠に何回も行くと思う、消えたところはあのあたりだったと……」。本書九四頁にある何の変哲もない絵が大切な一枚になるという意味で、読者は王子さまの姿を求めて、何度も読み返すのだろう。
 そして「私の極私的な『星の王子さま』観」として、「王子さまは、不自由さを抱えている私たちを見ている。見られている私たちは、王子さまのような存在になってみたいとも思う。私たちが映画スターに憧れても、銀幕のグレタ・ガルボは私たちを見ていない。しかし王子さまはこちらを見ている。一方通行ではなく双方向の物語なのです」と語った。
 「買ってくださった方が、『何度も聴いています』とか、『落ち込んだときに温かいものを感じました』とおっしゃってくださいました。とても嬉しいです。読者には特に若い女性が目立ち、子供さんへのプレゼント用に買われることも多いようです。深くて神秘的で美しい物語です。いろいろ想像しながら読んでもらえると面白いと思います」
 サンテグジュペリと小島俊明、そして澤登翠の出会いから紡ぎ出される三位一体のコラボレーションにより、『星の王子さま』に新たな生命が宿った。







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