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評者◆殿島三紀
ナチス映画のもうひとつの切り口――監督ケイト・ショートランド『さよなら、アドルフ』
No.3142 ・ 2014年01月18日




■『セッションズ』『ブランカニエヴェス』『少女は自転車にのって』『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』『さよなら、アドルフ』等を観た。
 『セッションズ』。ベン・リューイン監督・脚本作品。6歳の時にかかったポリオが原因で首から下が動かない青年マークが主人公。大学卒業後、詩人・ジャーナリストとして自活する彼の願いは心身ともに女性を愛することだったが、セラピストの協力のもと願いを果たす。マークのポジティヴな生き方と彼の願いを叶える支援体制に驚く。実話だ。
 『ブランカニエヴェス』。モノクロ無声映画である。パブロ・ベルヘル監督・脚本・原案。スペインの強烈な光と影が際立つ印象的な作品。モノクロームの力強さに圧倒される。
 『少女は自転車にのって』。映画が禁じられ、映画館もない国サウジアラビアの作品。監督はサウジアラビア初の女性監督ハイファ・アル=マンスール。女の子であるがゆえに受ける理不尽な差別を柔軟にしたたかにはねかえしていく少女の物語だ。
 『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』。ジム・ジャームッシュ監督、4年ぶりの意欲作。片やデトロイトに、片やタンジールに暮らす吸血鬼のカップルが主人公。ジャームッシュの真髄が光る傑作だ。
 そして、今回ご紹介するのは『さよなら、アドルフ』。これまでも第2次世界大戦時のナチスドイツは数多くの映画になってきた。連合軍が向かう強制収容所の金網に沿って骨と皮だけになり、やっとの思いで立っている縦縞の囚人服のユダヤ人たち。拳を固めて演説するアドルフ・ヒトラー。だが、いつ頃からかステレオ・タイプに描かれていたこの時代のドイツが変わり始めてきた。あるいは、悩める総統だったり、ナチスをやりこめるユダヤ人だったり。その度に時代は変わったと思いながら、その新しい切り口に新鮮味を感じていたが、これはまた――。
 そう、本作はこれまでとは全く異なる視点から描かれている。ナチス幹部の子どもたちのその後、という視点だ。脚本・監督はオーストラリアのケイト・ショートランド。オーストラリア映画である。原作はブッカー賞最終候補になったベストセラー小説「暗闇のなかで」(レイチェル・シーファー著)。ドイツ語はまったく話せない監督だが、リアリティを貫くため全編ドイツ語で通している。
 1945年春。敗戦後のドイツ。ナチス親衛隊の高官だった両親が連合軍に拘束され、14歳のローレは幼い妹弟を連れて、南ドイツのシュヴァルツヴァルトから母方の祖母が暮らす北のハンブルグまで約900キロ、爆撃で荒廃した国内を縦断する旅に出る……。
 とはいえ、おばあちゃんに会えてめでたしめでたしの感動のロードムービーではない。14歳という、大人とも子どもともいえない中途半端な年齢のローレ。彼女はユダヤ人虐殺の事実を、他の多くの国民同様知らされてはいなかった。親の罪は子どもには関係ないことだ。だが、反ユダヤ思想は大人たち同様、恐らくは彼女の中にも深くはびこっている。ドイツ人としての誇りや端然とした姿勢はナチス高官の娘という出自とも結びついている。14歳であれば充分にそれを理解できる歳でもあろう。が、しかし、やはり子どもなのだ。一人で小さな妹弟を連れ900キロも移動するのは、ローレにはあまりに荷が重い。道中、謎の青年が彼女たちに同行する。トーマスというユダヤ人だ。彼に助けてもらいながら心を開くことができないのも、物心つく前からたたき込まれ、身についた差別意識か。旅が終わりに近づいた時、彼女は生き抜くためになすべきことを知る。つまり、これまでの自分を捨て、トーマスにも謙虚に助けを請うことである。だが、それは同時に彼女が壊れ始めることでもあった。重い。
(フリーライター)
※『さよなら、アドルフ』は、1月11日(土)より、シネスイッチ銀座他にて全国順次ロードショー。







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