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評者◆竹原あき子
誇りを否定されたときフランス人は怒り憤る
A NOUS DE JOUER!
Stephane Hessel
No.3142 ・ 2014年01月18日




■すでにこの欄で2011年に紹介した「INDIGNEZ‐VOUS」(日本語訳『怒れ!憤れ!』)は、フランスだけで200万部以上(2012年までにヨーロッパ圏で300万部を突破)を売りあげた。その著者、ステファン・エセルが2012年2月に亡くなった。享年95歳。亡くなる数ヶ月前にラジオ番組で、眠りから覚めたらあの世だった、というような死に方がいい、と語っていたが、まさに願いがかなった静かな最期だったという。
 若い世代にむけて、差別や不平等そして無関心と戦うことを呼びかけていたのが「INDIGNEZ‐VOUS」だったが、最後の著作は〝憤れ〟から『A NOUS DE JOUER!(行動は僕たち!)』と若者を行動に誘う。死から1週間後の発売だった。本書でエセルは、フランス語の怒れ、憤れ、INDIGNEZという言葉に注意してほしい、という。この単語は〝誇り〟を意味するDIGNEとIN、〝否定する〟が組み合わさった言葉だ。つまり、どんな時でも怒れ、憤れ、と言っているのではない。それは〝誇りを否定〟された結果なのだ。だから翻訳語によってはタイトルの意味が表現されていないのが残念、といっている。スペイン語、ポルトガル語は大丈夫だが、ドイツ語は残念だ、とも。
 本書によれば、現代ほど生きるのに難しい時代はない。経済の危機はヨーロッパ世界を、いやそれ以外の世界をも動揺させた。アテネ、マドリッド、ニューヨークなどの怒れる人々を宿無しにした。彼らの声が届くには参加(アンガージュマン)しなければならない。しかも、われわれがこれから生きてゆくのは、個々に孤立した状態ではなく、国家の域を越えて互いに関係を持ちながらの世界だ。だから人間的な尊厳そして思いやりが、これからの力になる、と強調する。そして経済の、資本のグローバル化、国境がなく、政府でさえコントロールできない無責任で不透明な国際資本の構造こそが、現在起こりつつある国家の危機の根源にある、と説く。
 自らの驚くべき過去を著者が語るのも見逃せない。ナチに対するレジスタンスとして活動中に捕われ、強制収容所で37人が死刑宣告され、そのうち16人が絞首刑になったとき、エセルはなんとかしてそこから生還しようとした。生きて収容所から逃れることができたのは、同じ収容所に捕われていたドイツ人のおかげだった。彼はナチ親衛隊のチフスの専門医と交流があり、その医者に、戦争の終わりに、君が3人を救ったと証明書を出すから、チフスで死亡した人物をエセルの名前で火葬してくれと頼んだ。エセルは死亡した収容者の身分証明書で救われた。しかも最初の著作『怒れ!憤れ!』のドイツ語訳者は、彼の命を救ったドイツ人の息子だ、というのだ。
 スイスのチューリッヒでの講演、聴衆との質疑応答、ジャーナリストとの対話が中核となる本書は、ドイツ語からフランス語に翻訳されたものだ。エセルは最後のメッセージとしてリルケの詩を引用する。「生き方を変えるのは君自身だ。まだ憤ってるの? それは君が生き方を変えないからだよ」
(和光大学名誉教授・工業デザイナー)







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