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評者◆ベイベー関根(セックスシンボル)
アル中は大変だ。でも人間は面白い。(←もっともらしく)
失踪日記2 アル中病棟
吾妻ひでお
No.3141 ・ 2014年01月11日




■まー、卯月妙子『人間仮免中』は華麗にスルーしたこの連載でも(ほかにも諫山創『進撃の巨人』とか、あえてスルーしてるもの多数であることはいうまでもない!)これはさすがに取り上げざるをえないだろうなってことで、今回は吾妻ひでお『失踪日記2 アル中病棟』だ!
 前の『失踪日記』が出たときは、これはどうせみんなホメるんだし、わざわざウチでやんなくてもいいや、と思って取り上げなかったんだけどさ(そういう理由でスルーすることもときどきある)、今回も基本そこは同じながら、おそらく反響も前回よりは地味になるはずだから、ここで応援しとかないとダメだろう、とかな、まあこれでいろいろ考えているわけだ!
 え、なに、『失踪日記』読んでないの? そりゃモグリだな、帰った帰った!といいたいところだが、それでいいならこの連載全部それですんじゃうからなー。ま、要は吾妻ひでおがホームレス時代~自分の名前を捨てて暮らしていたころのことをセミリアリスティックに描いた(「セミ」というのは、モロにリアルだと、暗くてキツくて誰も読まないものになっちゃうので)作品で、これがすんげー面白くてバカ売れした上、いろいろ賞までもらっちゃったわけね。
 その巻末に後日譚的に付け加えられた「アル中病棟」を1冊分にアップサイズしたのが、今回の『アル中病棟』。タイトル通り、アルコール依存症になった吾妻ひでおが三鷹の某病院に3ヵ月ほど入院していたときのことが、300ページ超にわたってことこまかに描かれているわけだ!
 治療のプロセスとか、その途上で起こる出来事のあれこれもすごく勉強になるというか、身につまされるけど、それ以上に面白いのが、やっぱり入院してる患者さんたちの描き方だよね。『失踪日記』が、自分をつなぎとめるものがなくなった人間の目に映る外界をフィーチュアしていたのに対して、本作はキャラの巧みな描き分けと立たせ方がウリになってて、このへんはさすがのキャリアの長さを感じるなー。寸借サギ師の浅野、消灯後のティーパーティーを主宰する御木本女王、酒と○○○をいっしょにやっていた実は危険な脇道、プロのジゴロ姫島、いつも自信満々の杉野、ボケが入ってるっぽい黒田さん、「退院したら酒を呑む」と堂々宣言する星川さん、社長なのに極端に国語に弱い西畑さん……と、こんな具合に簡単に紹介してくだけでも軽く10行以上稼げるというね(笑)。
 「自分を突き放して見るのはお笑いの基本」とはよくいったもんで(もちろん実はお笑いに限らないけど)、笑える展開の後ろに、一級の私小説にあるのと同じ冷徹な視線が控えている。吾妻ひでおにノンフィクションばかり描いてほしいわけじゃないけど、花輪和一とも桜玉吉とも違う現実の描き方を切り開いてくれたら望外の喜びッス。まあそれにしても、吾妻さん、帰ってきてくれてホントによかったよ……。







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