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評者◆秋竜山
絵にも描けない便所の蓋、の巻
No.3141 ・ 2014年01月11日




 気になる、といえば気になる。気にならない、といえば気にならない。人によって、だけど。藤原和博『負ける力』(ポプラ社、本体七八〇円)に、次のような文章があった。
 〈私は講演でよく話すのですが、1万時間というのは,人間があることをマスターするのに必要な時間数です。1日3時間やれば、1年で1000時間ですから、10年でマスターレベルになれますから、20代から始めれば、誰だって(どんなに覚えの悪い人でも、奥手の人でも、苦手で不得意な人でも)、50代までにはヒアリングマスターになれるはずです。この技術だけは、積み上げることが大事です〉(本書より)
 この文章の中、とっても気になる個所がある。気にならない人はならないだろうけど。〈どんなに覚えの悪い人でも、奥手の人でも、苦手で不得意な人でも〉、とあるが、その内の〈どんなに覚えの悪い人〉と、いうのがひっかかる。なんだか、自分のことを言われているようにも思えてくる。くだらんといえば、くだらんだろうし、くだるといえば、くだるのである。あえて、なにも〈どんなに覚えの悪い人〉なんて言うことないだろう!!なんて、本当に、くだらんことを思ってしまうのだ。それは、自分のことを言われているようだからだ。これは、私のことを言っているのではない!!なんて、思える人がいるだろうか(いるかもしれないけど)。
 よく、若い時、まだ就職も決まっていない時など、「俺はいったい、どーなってしまうんだろう」なんて、将来に不安をいだいていた頃。大人たちに言われたものであった。「やっぱり10年はしんぼうしてみなくちゃァなァ!!」。石の上にも三年、と言われたものだが、それは言葉上だけであって、実際には10年となる。10年しんぼうしなくては仕事も一人前にはならないというのである。が、そう言われた本人は10年先といえば、とてつもない長い先の時間である。そんな時間、しんぼうができるわけない!!と、思ってしまうのであった。本書によって、年月を時間にたとえて教えられたような気がする。10年というと、1万時間ということになる。この1万時間というのを、どのようにとらえるかだ。10年というと、やってられないよ!!と、いう年月の長さを感じてしまうが、これが1万時間となると、わかったような、わからんような時間の長さである。
 若い頃、大工になろうと決心のようなものをした友人が、その親方に「まあ、10年もしんぼうしてみろ。便所の蓋ぐらいつくれるようになるだろう」なんて、その友人にいわせれば、「なんて、無責任なことを」と、なる。その友人は「便所の蓋ぐらいのものがつくれなかったら、どーしよう」と、考えた。そのことを聞いた漫画家を夢みていた私は「そーいう俺は、便所の蓋も描けないかもしれない」などと、言って、「さも、ありなん」と、二人で笑ったものであった。あの時、1万時間ということが頭にあったらどうだったんだろう。10年よりも短いような気がして、便所の蓋どころではなかったかもしれない。それにしても、今の時代、便所の蓋とはなんぞや? ということになる。どこへ行ったら見れるのだろうか。絵にも描けない便所の蓋である。







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