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評者◆三島政幸(啓文社コア福山西店)
「現在」と「過去」の狭間で錯綜する、連続誘拐殺人の謎
僕だけがいない街3
三部けい
No.3141 ・ 2014年01月11日




■筋金入りのミステリマニアを自認する私が断言する、「今、最も面白いミステリ」がここにある!
 三部けい『僕だけがいない街』は、小説ではない。コミックだ。
 漫画家を目指しながらもなかなか認められず、ピザ屋でバイトしている藤沼悟にはある特殊能力があった。自分の周りで危機的状況が発生したとき、その直前まで時間を巻き戻して、その状況が変わるまで繰り返すのだ。彼はそれを「再上映(リバイバル)」と呼んでいた。悟は「再上映」の中で「違和感」を見つけ、その状況を回避しなければならないのだ。
 悟の街では小学生当時、彼と同い年の少女たちを対象にした連続誘拐殺人事件があった。犯人は逮捕されたが、悟の身近にいた人であり、その人の犯行とは思えなかった。が、大人も警察も悟の母親ですらも、彼の主張を聞いてくれなかった。
 ある時の「再上映」で、その場に居合わせた母親・佐知子は、その場所で何者かが少女を連れ去ろうとしながら未遂に終わった現場を目撃した。その眼には見覚えがあった。あの事件の犯人はまだ捕まっていない、あの時の息子の主張は正しかったのだ! しかし、それを第三者に告げる直前、佐知子はその犯人(と思われる人物)に自宅で殺されてしまう。その直後に帰宅し、犯人が逃げる姿を見た悟は必死に犯人を追うが取り逃がし、逆に悟本人に母親殺しの容疑がかけられる展開になってしまった。この状況を打破するのは、母の死の直前まで時間を巻き戻す、「再上映」が起こるしかない――悟の願いが通じたのか、「再上映」は起こった。しかし繰り返しが始まった先は18年前の1988年、悟の小学生時代。あの忌まわしい、少女連続誘拐殺人が起こる直前だった……。
 こうして悟は2006年までの記憶を持ったまま、1988年の自分から人生をやり直すことになる。この世界での彼には大きな使命があった。あの事件を未然に防ぐのだ。せめて最初の被害者となった、クラスメートの雛月加代が殺されるのだけは絶対に阻止しなければならない。加代が母親からDVを受けていたことを知り、その母親と対抗しながらも、次第に心を通わせる悟と加代。加代が消息を絶つXデーを無事にやり過ごして安心した悟だったが、その翌日から加代は学校に来なくなった。行方不明になったのだ!
 ――と、ここまでが2巻までのあらすじである(かなり端折ったけれど)。3巻では悟が再び2006年に戻ってきて、さらに怒濤の展開を見せる。なにせ、2006年の世界では悟は「母親殺し」の容疑者なのだ。あの連続誘拐事件の真犯人は誰か、悟の母親を殺したのは誰なのか? 二つの大きな謎が同時進行で進みながら、高い緊迫感を維持し続けている。また、現在と過去を行き来することで、悟の心境の変化も描いているように思える。戻った過去で(若い当時の)母親に対峙して、何気なかった、失われた時間の大切さを実感するのだ。
 本作品で特筆すべきは、物語の先が全く読めないことだ。プロットが秀逸であるが故に、このあとどうなるのかが予想できないのだ。仮に予想してもそれは裏切られるだろうし、続きが気になって仕方ない終わり方をする。特に各巻のラストの終わり方は絶妙だ。我々は悶々としながら数ヶ月待たなければならないし、待ちきれなくなって雑誌の連載を追いかけることになるだろう。最新刊の3巻のラストも、つ、ついにこうなってしまったのか、というシーンが描かれ、そこであれが……! というような終わり方なのだ。
 今これを読まないのは絶対に勿体無いと思う。『僕だけがいない街』のサスペンスフルかつ謎だらけの世界をぜひ体験していただきたい。







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