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評者◆ムーママ
読むごとに進化する作者
何者
朝井リョウ
No.3140 ・ 2014年01月01日
What is 「本が好き!」?
コラボ企画 書評でつながるWeb上の読書コミュニティです。本の趣味が合う人や、思いもよらない素敵な本と出会えます。書評を書くとポイントが貯まり話題の本のプレゼントに応募できます。 選評:現在進行形の事象をテーマにした小説に対し、小説の内容を追いながら、それを足がかりに問題の核心をとらえようとする視線が向けられています。それによってムーママさんの評を読んだ読者は、この本の意義が単なる物語としての面白さから1ステージ上に進み、この本への読書欲がさらに刺激されることでしょう。 ■朝井リョウは1989年平成元年生まれの作家。書きなれ、実績を残している作家達に与えられるという印象のある直木賞に決まったとき、とても驚いた記憶がある。しかし今まで読んだ3作をみても確かにその力量を感じさせる。特にこの作品は背伸びしたような表現もなく彼ら若者の内面を見事に描ききっていると思う。 彼らの世代から、ゆとり教育が本格施行されて、個性を大切にするという名の下に主要5教科が週3時間という恐ろしい教育課程になった。現場があの手この手で補習授業の時間を捻出して学力維持に努めたころだ。多くの学習でポスターセッションやプレゼンなど発表の準備に時間を割いて系統だった学習を保障されなかった世代だといってよいかもしれない。沈黙は金とばかり黙り込んでいる学生に業を煮やした教育界で自己表現こそが大切と伝達能力ばかりに傾注して行った感もある。でも彼らは物怖じしないしイラストやコピーでまとめる能力も高い。今、社会に出てもゆとり世代とやや皮肉っぽく言われ、薄学の代表のように見られて気の毒なところもある。高校の教育課程は薄くなっても大学入試は、(特に難関大学は)変わらない。どうにか勝ち残って過ごした4年間の後に待っているのが就活という名の「個性」の仕上げである。 一方で石川遼現象のように、幼いうちから「何者」かになることを期待されて育った子どもたちが、初めて学校という常に自分を見て評価してくれ進路を決めてくれた場所から巣立たなければいけないのが就活である。 「だからこれまでは、結果よりも過程が大事だとか、そういうことを言われてきたんだと思う。それはずっと自分の線路を見てくれてる人がすぐそばにいたから。そりゃあ大人は、結果は残念だったけど過程が良かったからそれでいいんだよって、子どもに対して言ってあげたくなるよね。ずっとその過程を一緒に見てきたんだから。だけど」 瑞月さんは言った。 「もうね、そう言ってくれる人はいないんだよ」 夢をあきらめるな、必ず叶うと育てられた彼らが、「何者か」になるためには周囲に認められなくてはならない。演劇を志すものも、音楽に情熱を傾けたものもそこに生活者としての視点が加わったとき、自分が「何者か」になるために苦悩する。 「たくさんの人間が同じスーツを着て、同じようなことを聞かれ、同じようなことを喋る。確かにそれは個々の意志のない大きな流れに見えるかもしれない。だけどそれは『就職活動をする』という決断をした人たちひとりひとりの集まりなのだ。自分はアーティストや起業家にはきっともうなれない。だけど就職活動をして企業に入れば、また違った形の『何者か』になれるのかもしれない。そんな小さな希望をもとに大きな決断を下したひとりひとりが、同じスーツを着て同じような面接に望んでいるだけだ」 なりたい者からなれる者に意識を変換しない限り、生活者としての地位は得られない。就職活動を始めた5人のメンバー達の個々の思いと内定獲得のためのなかなか実ってくれない努力、本音を言えずに表面だけで認め合う関係、それらがツイッターの呟きを通して描かれる。 「俺って、ただ就活が得意なだけだったんだって」(略)「なのに、就活がうまくいくと、まるでその人間丸ごと超すげえみたいに言われる。(略)」「(略)それなのに就活がうまくいかないだけで、その人が丸ごとダメみたいになる」(略)「就活は終わったけれど、俺、何にもなれた気がしねえ」 内定をもらった光太郎がまだもらえぬ拓人に語る慰めだが、まさにその葛藤がひとりひとりのなかに蠢いているのだと思う。 この就職活動を学生の目から描いた物語は、本当に考えさせられることが多く、成人とはいえ、話術、人脈作り、空気の読み方と若い彼らには何と重荷のことだろう。ネット上に自分をフォローしてくれる人を求めてさ迷うIT難民は少しでも荷を軽くしたいのかもしれない。形や戦略からの自立を書くこの物語の主題からは離れてしまうかもしれないけれど、一体企業は何を求めているのだろう。体面を保たせるしたたかさや組織の中でうまくやっていける人間力か……少なくとも目の前の学生の、企業の中で「何者か」になりたいという希望には気づく余裕はないのかもしれない。夢をあきらめるな努力しろという大人や甘いメロディの歌詞に囲まれながら、出口を見つけられずにいる若者達にそれでも言いたい。あきらめるな、人生はそんなに悪いものではないよと。 次選レビュアー:sasha〈『死刑』(角川文庫)〉、ast15〈『渡りの足跡』(新潮文庫)〉 |
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