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評者◆竹原あき子
歴史的なプロゴフの反原発運動を描いた漫画本
PLOGOFF(プロゴフ)
シナリオ=Le Lay Delphine、デッサン=Horellou Alexis
No.3140 ・ 2014年01月01日




■反原発運動でフランス人の記憶にしみ込んでいるのはプロゴフだ。ブルターニュ地方の、海に突き出た貧しい港町。漁師とその留守を守る女性たちが原発建設に反対するはずがない、と候補にあがった土地だった。1973年にはじまる石油危機。当時大統領だったヴァレリー・ジスカール・デスタンは原子力発電所建設に邁進したが、1980年、プロゴフの住民は壮絶な反対運動を繰りひろげた。それはドキュメンタリー映画『プロゴフ・銃に石で対決』となり1981年に上映され、抵抗の激しさを伝えた。
 その映画監督へのインタビューを元に、漫画『プロゴフ(PLOGOFF)』が出版されたのは2013年6月だった。もちろん福島の原発事故がきっかけだったが、漫画という形式を選んだのは、福島事故を描いた日本の漫画本が根底にある。若い二人、LELAYのシナリオとHORELLOUの描写、という共同作業だった。表情のクローズアップが多く、動きの描写も下手だが、ドキュメンタリー映画に忠実に、女、子ども、老人から漁師や退役軍人まで、住民のあらゆる抵抗手段を描き出す。催涙弾にパチンコで石を投げて抵抗する住民の姿が目に焼き付く。
 本書は最後から3ページ目に、フランス人だったら、だれもが覚えているテレビのシーンを描いている。1981年、ジスカール・デスタンを破ってミッテランが大統領に当選した瞬間、まだブラウン管時代だったテレビ画面は頭部、目、鼻、と顔の部位を順々に見せ、最後にミッテランの顔になるシーンだ。それを見守っていた住民は「勝ったのは俺たち」と叫ぶ。なぜならミッテランはプロゴフ原発の建設不許可を選挙公約にしてきたからだ。
 だが、最後のページに「1982年いらい、フランスでは39基の原発が新たに稼働しはじめた。そのうち11基はまさに1982年とそれに続く年に工事がはじまった。以来、フランスの発電は原発が他の発電を圧倒した。1980年代に再生可能エネルギー予算は減少し、それが多くなることはなかったが、原発予算は際限なく増大した。ついにフランスは発電所の数とその発電量で世界第2位になった。2012年、フランスは原発8基を輸出するに至った」と記録している。ミッテランは、プロゴフ建設は撤回するが、他の原発は救えと当時の関係大臣に命令していたのだ。
 プロゴフの反原発運動は映画や書籍など、すでに多くの記録に残っている。だが反対運動が激化した年にまだ1歳だった作者は、福島でのカタストロフがあった瞬間、プロゴフを漫画にして後世に引き継がなければと決心した、という。後世に語り継ぐために漫画というメディアで表現し得たのはやはり若さゆえだった。
(和光大学名誉教授・工業デザイナー)







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