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評者◆小嵐九八郎
歓びの果てに……寂寥
『老いて歌おう』選歌集 百歳がうたう 百歳をうたう
伊藤一彦編著
No.3139 ・ 2013年12月21日




■青春時代は「いかに生きるべきか」と必死かつ悶々と考え「恋と、闘い」などと狭く思い込んでいたけれど、老いると、やっぱり病気、そして息を鎖す死へと関心が向く。どうせなら、あれこれのがたは受け容れ、好奇心旺盛に、あっけらかんとあの世へと考える。が、そうはいくまい。困った時の神頼みや、仏の慈悲に縋ってわるさを帳消しにという心はあるけれど、信仰をキリスト教か仏教に求めようとしても、ユイブツ論の感性に長らく冒されて、そうとはなかなかならぬ。
 その老いで、例の通り、眼鏡をどこに置いたか忘れ、探しているうちに別の思い入れがあった文庫が、ひょっこり、へそくりを仕舞っていた小箱から出てきた。今年一月出版の本だ。
 『『老いて歌おう』選歌集 百歳がうたう 百歳をうたう』(伊藤一彦編著、鉱脈社「宮崎文庫ふみくら」、本体476円)がこれ。「心豊かに歌う全国ふれあい短歌大会」という場に応募した中の90代・100代の人達の十年分を絞った歌歌の文庫だ。
《特老への明日は入所の妻の手を目覚めぬ様にそっと握りぬ》佐藤大六(90歳)
 編著をした伊藤一彦氏が、たぶん、きっちり事情を一首一首について聞き取りしたであろう解説によると、妻が入院先から特老の方に移る時の歌とのこと。技巧より先立つのは歌に込めた心情であると教え、泣く。
《寮母の名目隠しをして当てさせるこの時ばかりあちこち触る》 諌山健剛(91歳)
 当方の濃い恋愛小説一冊分より、はるかに生生しい短詩だし、生命力がある。降参。
《何とキレイなお嬢さん ご飯け? 千代は重いぞ大丈夫か》 今井千代(105歳)
 俵万智さんが切り拓き、穂村弘さんが頂へと登らせたような喋り語が楽しい。
《父ちゃんよ盆はつら見せけ戻っち来いご馳走作って待っちょいからね》 渡守ミチエ(93歳)
 「つら」は「面」のはず。歌人のみなさん、土着語は捨てられるだろうけど、凄いやろ?
《五人の子の添寝に唄いし子守唄今一人居て己がために歌う》松平キヨノ(92歳)
 ブンガクゲージツを文学芸術と記したくなった。名歌である。歓びの果てに……寂寥。







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