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評者◆内堀弘
痛切な入札会 村上一郎の旧蔵資料
No.3139 ・ 2013年12月21日




■某月某日。一年が瞬く間に過ぎていく。この連載を読み返すと、三月に山口昌男さんが亡くなり、九月には編集者の中川六平さんが亡くなった。親しくさせていただいた人の死は辛い。二人とも七十年代の匂いをまだどこかに残した人だった。
 残暑が終わった頃、古書の入札会に村上一郎の旧蔵資料が出た。
 村上一郎が自害したのは1975年だった。その年、山口さんは『文化と両義性』『道化的世界』等の著作を次々と刊行している。中川さんは、店長をしていた岩国の反戦喫茶「ほびっと」が閉店になった。私はまだ学生で、新宿駅の南口で息せき切ってやってきた先輩から「村上一郎が死んだ」と聞かされた。
 古本屋をはじめて何年か経った頃。詩人の阿久根靖夫さんの家(というかアパートの一室)に本を買いにいったことがある。阿久根さんは晩年の村上一郎と親しくされた。いろいろな話を聞かせてもらい、村上一郎の自筆歌集など貴重なものを頒けていただいた。新宿駅で訃報を知ったことを私は話した。たしか土曜日だった。阿久根さんは、いや土曜じゃないよと、そのことには妙にこだわった。それでも、もう十年も昔の話をしているという感慨は互いにあった。その日から、三十年近くが経っている。
 資料は、主に村上一郎に寄せられた書簡葉書、それに備忘録とも下書きともとれるノート類、執筆のための資料類だった。
 こういうものが没後四十年近くを経て古書の世界に姿を現す。六十年安保、『試行』の創刊、そこでの確執、『無名鬼』の創刊。時間の破片が束になって出てきたようだ。
 今年、最も印象深い入札会だった。まず全体に目を通す。落札しなければいけない。その気持ちが痛切で、ドラッグストアで胃薬を飲んだ。
 そういえば同じ頃だったか、宮澤賢治の自筆書簡、葉書が入札会に出品された。こちらに痛切な思いはないが、しかし入札会で賢治の真筆を見るのは奇蹟だ。それほどに稀少なものだ。宛先は同窓生で、もちろん全集には収録されている。それでも何世代かが過ぎれば現れる。
 古書の世界は暗渠のようで、五十年前も、百年前も、もう終わった時間に不意に繋がる。いや、ここではなにも終わらないということか。







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