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評者◆秋竜山
夢と希望だけが友だちさ、の巻
No.3139 ・ 2013年12月21日




■PHP研究所編『やなせたかし 明日をひらく言葉』(PHP文庫・本体五七一円)を読みながら、やなせさんを偲ぶというようなことになってしまった。ありし日のやなせさんのことがつぎからつぎへと浮かんでくる。スマートな都会的な人だった。漫画家として大成功しているから、もーしぶんないだろうというようなことを聞いたことがあった。すると、「その前がいけなかった」と、いった。私の聞きかたがいけなかったようだ。「たしかに、もーしぶんなかった」なんていう人はいないだろう。若い時はひどかった、とはいうが私にはそう思えなかった。若い時から〈やなせたかし〉を作品として発表している。私はやなせさんの本質は、詩人ではないかと思っている。そうすると、漫画のほうはどうなるか、といわれると、漫画家でもあり、詩と漫画が一つになっていた。本書は、やなせ漫画におけるやなせ漫画論であり、やなせ人生論でもある。
 やなせさんは漫画界では司会の名手であった。だから漫画家の集まりの時は必ずやなせさんが司会を受け持った。安心して司会をまかせられた。しかし、「最後にひとこと多いんだよなァ」「アレがなければいいんだが」「でも、アレがなかったら、やなせさんの司会としては、ちょっと、ものたりないからなァ……」と、これらがみんなの意見であった。個人の紹介など、ホメたりするものだから、紹介されているものはいい気分になる。そこで終われば非常に素晴らしいと本人は思うだろうが、そーはトンヤがおろさない。いよいよ最後、そして、ドーンと落とされる。腹の立つことではないが、苦笑させられる。会場内は笑いにつつまれる。私の場合は、これから私が話そうとしている矢先に「秋さん、面白いことをいって……」と、いうようなことをいわれた。私にしてみれば、私の話が面白くないから、司会者として、「面白いことをいいなさい」と、いう意味なのか。そんなこといわれると、面白いこともいえなくなってしまう。しかし、やなせさんの司会する会場は、やなせさんのふんいきそのもののやさしさのあるパーティになったものであった。それをしっているから、必ずやなせさんは司会をやらされたのである。
 〈生まれついての天才とか、ズバ抜けて頭のいい人なんて、実際はめったにいない。九九パーセントは普通の人だ。〉〈ぼくは残念ながら天才ではなく、九九パーセントのほうだった。でも毎日、一生懸命、漫画を描き続けているうちに、それなりに進歩してきた。昔の絵を見ると実に下手くそだと思う。自分なりに努力し続ければ、凡人だって、やがてある水準に到達するという見本なのかもしれない。〉(本書より)
 昔のことが思い出されてしまう。みんな十代であった。田舎から漫画家になりたくて上京してきた、いわゆる漫画家を夢みるボーイたちであった。喫茶店で一ぱいのコーヒーで四時間、五時間ねばって漫画の話ばかりしていた。誰がいい始めたか、「エジソンは、天才は九九パーセントの努力であって、あとの一パーセントが才能であるといった。」その言葉には、俺たちにも期待がもてるらしいという希望が持てた。みんな九九パーセント人間の凡人たちの集まりであった。努力すればかなえられる。夢と希望だけで生きているような仲間たちであった。







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