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評者◆細川早苗(ブックス・みやぎ)
思い出が人を形作る
すばらしい日々
よしもとばなな
No.3139 ・ 2013年12月21日




■今回オススメするのは、よしもとばなな『すばらしい日々』(幻冬舎)である。
 ここ半年の間に、自分の周りで親御さんを亡くされた方が、4人もいる。年齢的なこととはいえ、色々考えさせられた出来事だった。そんな時に発売されたよしもとばななの新刊なのだが、帯を見て、「彼女もご両親を亡くされたのだったなぁ」と手に取った本である。
 元々よしもとばななの小説は好きで、10代の頃に読んだ「白河夜船」がその後の私の本好き体質を作ったと言っても過言ではない。しかし、その後20年の間に、彼女の小説は“商品”としか見えなくなり、読みたくてもページが進まないもどかしさに落ち込んだりもした。でも、いまでも好きな作家さんだという思いは変わらない。
 好きな作家さんのエッセイはあまり読まないようにしていたのだが、最近は物語よりちょっとしたエッセイの方がすんなり読めるようになった。年を取ってきたからかなぁなどと、自分では思っている。
 この本は、よしもとばななが関わった人々や日々を綴っている本で、特に大きく感動したわけでもなく、自分の日常もこんな風に綴ることができたらどんなにいいだろうと思ったぐらいなのだが、なにかが、なぜか、ちくりちくりと胸を刺すのだ。
 正直私は「死」が怖い。そんなことを言っている年齢ではないのだが、やはり慣れるものではないし、分かるものでもない。私のじいさんはいつも厳しく、怖いものなどなさそうな人だったが、彼が亡くなった後、寝室の押し入れから出てきた一本何千円もするドリンク剤を目にしたとき、あーあんなにおっかない人でも死ぬのは怖かったのかなぁとその時は思った。まぁただ単に長生きしたかっただけかもしれないが。
 まだ両親も健在で、離れて暮らしている分、老いも見えづらい。孝行らしいことなんて何一つしていない。仕事でよく店に来る人に、「人は親が生きている限り、いくつになろうが子どもなんだ」と言われた。
 よしもとばななもまた、「両親を見送るまではなんだかんだ言っても子どもでいられたのだ」と書いている。同じ時期に二回も同じような言葉に出会うとは、なんの心構えもしていない自分への戒めなのかもしれない。
 この本を読むと、人を形作るものとして、思い出というのは大事だなぁと改めて思う。もちろん、誰かとの思い出だ。なんでもない日々のありふれた朝食も、特別な日の特別な装いも、机にいつも置いてある愛用している物も、なんだか知らないけどみんなで泣きあったことも、テレビ番組の奪い合いも、死ぬまで移り流れゆく人生の中で、無駄なものなどないのかもしれないなぁと、感じた。
 私の感想は、きれいごとなのかもしれない。どうせなら、おもしろおかしくきれいごとの多い人生でありたいと常々思っている。周りの人にもそうあって欲しいと思ってはいても、なかなかそうはいかないことも事実として分かってはいる。日々の生活の中で悲しいことや苦しい時、大切な人にさえなにかしてあげられることってあまりないのかも……とぼんやり考えたこともあったし、気持ちの面で自分がそういう時は自分でなんとか立ち直るしかないのかもしれないとも思う。
 本の中でしっくりくる文章を見つけた。
 〈エゴとエゴをぶつけあって、お互いのニーズを通そうとするのは生き物としてしかたがないことなのだと思う。きれいごとの入る余地はない。余裕があるときだけ、相手のことを考えてあげられる、それがせいぜいなのかもしれない〉
 この一文に会うために、遠ざかっていたよしもとばななの新刊にすんなり手が伸びたのだと思った。







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