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評者◆『名探偵の証明』を出版した市川哲也氏
第二三回鮎川哲也賞の受賞者名は〝鮎〟ではなく〝市〟の一字違い!
名探偵の証明
市川哲也
No.3138 ・ 2013年12月14日
■落ち目の探偵と今を時めくアイドル探偵の対比が鮮やかな異色ミステリ
第二三回鮎川哲也賞は、一五二編あった応募の中から、市川哲也氏の『名探偵の証明』に決まった。かつてはヒーロー、しかし今は落ちぶれてしまった名探偵と、彼に憧れる現代のうら若きアイドル探偵の活躍を通じて、人間のそしてミステリの栄枯盛衰を浮き彫りにする異色の本格ミステリ作品だ。 まず驚くのはその名前。〝鮎〟ではなく〝市〟の一字違いは、誰もがペンネームだと思うところだが、実は本名だという。そんな市川氏は、鮎川賞の応募は今回で二回目。「第二二回に続いての応募でした。前回の内容は、孤島が舞台、大学生が主人公というありきたりで語りたくもない内容です」と苦笑い。本作については、「すべてのアイデアを投入したつもりだったので、書いている段階では「これは絶対に受賞だ!」と思っていました。しかし投函後、その気持ちは揺らぎました。「あそこは、ああしておけば良かった」とか。去年に本作を応募していたら、受賞できていなかったかもしれません。運が良かった」と振り返る。 物語冒頭は名探偵・屋敷啓次郎の若き頃から始まる。そしてそこで扱う事件解決後、一気に時計の針は進み、屋敷は過去の人に。この展開の発想の源は、「映画『レスラー』(ダーレン・アロノフスキー監督)なんです。映画ではレスラーの栄光の時代は一分くらいでさらっと流れた程度です。本作ではそこはちゃんと頁を割いて、若い時代から定年を過ぎるまでを書きたいと思っていました。この展開には、僕が願望している自己像が反映されています。というのは、新人賞を取ってもしかして人気作家になったとしても、いずれ落ち目はくる。それでも「書き続けていろよ、未来の俺」という自分へのメッセージなんです」。 屋敷とは対照的に今を時めくアイドル探偵・蜜柑花子の存在を通して、屋敷自身の悲哀がより鮮明になる構成が見事だ。「登場人物の名前は、珍しい苗字が載っているネットサイトを見ながら選びました。それはキャラの判別がしやすいようにという理由からです。屋敷は〝新本格〟を、蜜柑が〝ライトノベル系のミステリ〟を象徴するキャラ。蜜柑のイメージは、実在の人としては〝きゃりーぱみゅぱみゅ〟さんを意識して書きました」。 高知県出身で現在も在住。単行本は、「高知市内の書店で初めて見ました。取材を受けた「高知新聞」の顔写真付き記事とともに、きちんと並べられていて気恥ずかしかった」。限られた友人にしか応募のことは話していなかったそうだ。「そもそも親にも執筆については一言も伝えていませんでした。だから親のプレッシャーがすごかった。アルバイトをしながら、〝何かをやっている〟感を出していました。親が知ったのは、この受賞がきっかけです」という裏話も。 大学卒業後は、ゲーム関係のシナリオライターとして仕事をしていた。しかし「社会人として、そしてシナリオライターとしての無能さ」が原因で退職。これを機に実家へ戻り、本格的に執筆活動に入った。ということは〝退職〟という決断がなければ受賞はなかったかもしれない。会社では、用意されたプロットに従ってのシナリオ作りで、自分の本意とは異なることもあったという。その経験がむしろ〝進むべき道〟を照らしたのではないだろうか。それゆえ「受賞して見返そうという気持ちもなくはなかったですね」。 ミステリとの接点を聞くと、意外にも「はっきりしていなくて」と話す。「小説を真剣に読み始めたのが、石持浅海さんの作品。そこからミステリ以外の本は読まなくなりました」。つまり小説=ミステリということなのだ。「気がついたら鮎川哲也賞に応募していました(笑)。あとづけで思ったのは、数ある新人賞の中で唯一〝本格ミステリ〟であることを評価してくれる賞だからということですね」。 そこで〝本格ミステリ〟とは何かを尋ねると、「最後のオチについてしっかり伏線があり、読み返すとちゃんとそれらが確認できるもの。特に大きいトリックがなくても本格ミステリだと考えています」。本書を既にひもといた人はきっと腑に落ちる言葉だろう。 次回作は既に執筆を始めている。本作を第一部とする三部作構想があり、次は第二部となる予定だ。「本作における最後の事件の後の蜜柑の活躍を描く予定です。ゲーム会社では自分のやりたいことがなかなかできなかった。だから基本的には自分の発案で仕事ができる作家を長く続けたい。何とか一〇冊を目標に据えています」 黒縁眼鏡のレンズ越しにきらりとほの見える野心。「映画『風立ちぬ』を観たときも思ったのですが、どうしようもなく自分の好きなこと、クリエイティブなことをやってしまう人間の業といいますか、女性から見ると、そういう男性はしんどい存在かもしれないけれども、許してくれよと。屋敷の姿をそういうクリエイターの話として読んでもらえると、また違った風景が見えてくるかもしれませんね。全然本格ミステリ的な締め括りでなくてすみません」とはにかんだ。 |
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