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評者◆ 
  
患者教師・子どもたち・絶滅隔離〈ハンセン病療養所〉――全生分教室自治と子ども手当て
樋渡直哉
No.3138 ・ 2013年12月14日




■かつて作家の野間宏は、ハンセン病療養所を日本の最も深い闇だと形容した。著者はこのことばを引きながら、「その暗黒に患者教師と子どもたちがいて、ともに己の絶滅に向かい合っていた」と書く。本書は多磨全生園全生分教室などの療養所内分校に焦点を当て、そこでの「患者教師と子どもたち」の実態、人望ある教師や患者が追放された背景を探り、療養所に収容された知識人たちの生き方と彼らの誠実さはどのようにして生まれたのか、彼らがどう教育に関わったのか等を明らかにした。
 「癩予防法」と無癩県運動によって、ハンセン病患者は療養所に隔離され、絶滅政策に晒され続けた。子どもたちも例外ではなく、隔離されて学力を育む環境を奪われた。だが多磨全生園全生分教室は奪われた環境をみずからの手で創り出した。そこには子どもたちと喜怒哀楽を共にしながら、自由で平等な関係をつくりだす教師たちがいたのだ。
 子どもたちは親兄弟や友人たちから引き離され、非人間的で反教育的な環境に追い込まれた。それに対して療養所内の教師は、絶滅に抗してその環境を克服していった。多磨全生園全生分教室は、療養所の自治によってそれを実現したのである。
 隔離という環境ゆえに逆に療養所内の教師たちは、外から押し付けられる教育管理制度や権威、人事異動や勤務評定などに翻弄されることなく、目の前の子どもたちだけを見つめて授業に研鑽することができた。身分や資格、地位などに規定されず、同じ関心を共有する者たちが独自の知的環境を創り上げ、それが子どもたちの自由と自治の気概を育てる要因となった。
 療養所内分校の経験から学ぶべきことはあまりに多いと著者はいう。現在の教育現場には欠如しがちな、学ぶことと教えることのめっぽう好きな教師が療養所内分校で育ったこともその一つである。さらに著者は、思想史家の藤田省三の「或る歴史的変質の時代」(『精神史的考察』所収)の一節を引いて、療養所内分校で輝いた人間の普遍的価値を本書に描いている。
 著者は教師や子どもたちの記録を手がかりに、歴史の表面には出てこないその価値を浮かび上がらせた。教育とは何かを改めて考えさせる内容が、本書の随所に詰まっている。







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