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評者◆殿島三紀
旅をするならロードムービーで――監督ヤセミン・サムデレリ『おじいちゃんの里帰り』
No.3137 ・ 2013年12月07日




■『マラヴィータ』『ウォールフラワー』『終わりゆく一日』『ハンナ・アーレント』『おじいちゃんの里帰り』等を観た。
 『マラヴィータ』。リュック・ベッソン監督作品。証人保護法で守られながらフランスを転々と逃げ回る元マフィア一家。ノルマンディ地方を舞台に一癖も二癖もある一家が繰り広げるバイオレンス・コメディだ。ラストの銃撃戦が凄すぎて笑った。
 『ウォールフラワー』。友人ゼロ、何をしてもシカトされるスクールカースト最底辺の高校生が主人公の青春映画。アメリカ図書館協会の“最も頻繁に問題視される書籍10冊”に過去5回リストアップされた同名小説である。その原作者のスティーヴン・チョボスキーが脚本を書き、監督もした。
 『終わりゆく一日』。チューリッヒの工業地域にあるスタジオの窓辺にカメラを据え、窓の外の風景を15年間定点撮影した風変わりなドキュメンタリー映画。監督はスイスのインディペンデント映画作家トーマス・イムバッハ。15年を111分で駆け抜けるという稀有な体験をさせてもらった。
 『ハンナ・アーレント』。マルガレーテ・フォン・トロッタ監督。ハイデッガーとの恋、強制収容所からの脱走、2度の亡命という波瀾万丈な人生を送ったユダヤ人哲学者。その人生からアイヒマン裁判前後の4年間だけにフォーカスした作品。重厚なドイツ映画だ。
 今回ご紹介する『おじいちゃんの里帰り』もドイツ映画である。ドイツからトルコへ一族郎党を引き連れて里帰りするトルコ系ドイツ人が主人公。監督もトルコ系ドイツ人二世のヤセミン・サムデレリだ。脚本は、彼女と妹ネスリン・サムデレリが実体験を下敷きにし、50回もの書き直しの末に仕上げたもの。1960年代の初め頃から本格的に始まったトルコからドイツへの移民。第二次大戦後、日本同様、復興期から高度成長期に入り、労働力の不足した西ドイツはスペイン、ポルトガル、ギリシャ、イタリア、トルコから多くの労働者を迎え入れた。1960年頃といえば冷戦のさなか。ドイツに近い東欧との往来が断たれてしまったため、南欧やトルコから労働者を受け入れたわけだ。中でもトルコからの労働者が最も多く、最初は出稼ぎのつもりだった彼らも70年代になると家族を呼び寄せるようになる。ヤセミン&ネスリン・サムデレリもそんな風にしてドイツで生まれた世代だ。
 この映画の見所、笑い所は、言葉も文化も生活も宗教も違う国へ初めてやってきた主人公たちの驚きだ。曰く、脚が短くて胴が長い巨大なネズミみたいなもの――ダックスフントのこと――を大事そうに散歩させているドイツ人。曰く、ワケのわからない言葉を話し、水の流れるヘンなトイレで用をたすドイツ人。主人公一家の目に映った初めてのドイツはかなり変な国だった。映画は、主人公がドイツへ来る前のトルコ、家族が増えていくドイツでの生活、そして、里帰りのパートから成り、60年代から現代までの時の流れを描き出す。主人公たちのドイツへのとまどいは、初めて訪れたドイツで彼らがドイツ語を話し、本来のドイツ人たちがトルコ語を話すという言語の逆転で表現される。二世である監督たちにとってトルコ系ドイツ人はもう移民じゃない、ということだ。ドイツの生活習慣のひとつひとつが移民一世にとっては「え~っ! こんな不便な生活、信じられない」だったのが、50年経ってトルコに里帰りしてみれば同じことを口にする彼ら。とはいえ、そのアイデンティティはやっぱりトルコ。片足はドイツで、もう片足はトルコという彼らの生活を、笑いながらも考えさせられた。しかし、深刻になることはない。セピア色の50年前と原色の現代、時間旅行とトルコ旅行を楽しませてくれるロードムービーだった。
(フリーライター)







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