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評者◆秋竜山
貧乏暇なし国、の巻
No.3137 ・ 2013年12月07日




■天野祐吉『成長から成熟へ――さよなら経済大国』(集英社新書、本体七四〇円)のプロローグ〈世界は歪んでいる〉で〈マスク〉について。マスク人だらけ。顔の表情がさっぱりわからない。笑っているのか、泣いているのか。怒っているのか。眼の表情でとらえればいいのか。サングラスでもかけられたら、お手上げだ。あの無表情は世紀末そのものである。
 〈近ごろあまり人に顔を見られたくないというんで、外に出るときはマスクをかけているという人もいるそうです。(略)マスクをかけると、顔が見えなくなる。顔が見えないというのはブキミなものです。鞍馬天狗は覆面で顔を隠しているから怖がられるのであって、いつも覆面を取って歩いていたら、ただのオジサンになってしまうんじゃないですか。〉(本書より)
 あのアラカンの鞍馬天狗のオジサンはかっこよかった。杉作少年にむかって、「オジサンはね……」なんて、アラカンの声だからかっこよかったんだろうね。もし、鞍馬天狗があの覆面ではなく、黒いマスクであったらどうだったんだろうか。江戸川乱歩の世界の鞍馬天狗になってしまうのか。昔は、マスクといえば病院ときまっていた。マスクをみたかったら病院へ行けばよかった。マスクをした医師をみると、この先生は信じられると思えるものだった。鼻毛をみないで済んだから。そして、看護婦のマスク姿は、どの看護婦も同じ顔に見えた。
 〈マスクをかけずにマチを歩いている人は、かなり変人ということになってしまうんじゃないかという気がするくらいです。〉(本書より)
 マスクをしてないと、「オイ!!コラ」と警官に「あやしい奴」と追いかけられることになってしまう時代がくるかもしれない。国会で全員がマスク議員になってしまったら、誰が誰だかサッパリわからなくなってしまうだろう。もっとも、マスクをしてなくても、誰だかわからない議員ばかりである。マスクに、何党という文字を大きく入れてほしいものだ。国会議員で顔がわからなくなると、この上ない便利さは、安心してイネムリができるからだ。国民はテレビをみていても、誰だかわからない。
 〈豊かさを測るモノサシには、「カネ」尺と「ヒマ」尺という二つモノサシがあります。で、この二つのモノサシを組み合わせて使うことで、豊かさの度合いを測ることができる。こころの豊かさなんていうめんどくさいのは、ちょっと別ですが、数字で表せる豊かさなら、この二つで簡単に測れるというわけですね。〉(本書より)
 たしかに、こころの豊かさを測るとなると、めんどくさい。豊かだろう、といえば豊かでないというし、豊かでないだろ、といえば豊かだ、というのがこころというものだ。
 〈カネもヒマも両方ともゼロの場合。これはおなじみ「貧乏暇なし」の状態。戦後の日本の人がこの状態で、こういう状態にある国を「貧乏暇なし国」と申します。〉(本書より)
 なんともなつかしい響きのある言葉であることか。今、こんな素晴らしい言葉を聞きたくても聞けないようだ。もしかすると、昔より今の時代のほうが貧乏暇なしかもしれない。「貧乏暇なし」と「いろはガルタ」にあった。その札だけ「ハイ」といって取る。「またお前か」。うれしいような、うれしくないような。







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