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評者◆伊達政保
アイヌの若者と水戸天狗党を重ねているのだ――ピープルシアターの船戸与一原作『蝦夷地別件』
No.3137 ・ 2013年12月07日




■10月半ば、いろいろスケジュールが重なったため、三日連続で芝居を見ることになった。月蝕歌劇団の寺山修司作『盲人書簡‐‐上海編』、新宿梁山泊の李麗仙主演『月の家』、ピープルシアターの船戸与一原作『蝦夷地別件』。高取英演出による寺山ワールドの迷宮、元「状況劇場」の大女優李麗仙の圧倒的演技にぶちのめされる日本的感性、2800枚に及ぶ日本冒険小説協会大賞受賞作の初の舞台化、続けて見るのはあまりにも濃すぎたのだ。
 この中で、見る前から気になっていたのは『蝦夷地別件』だ。船戸のとてつもないスケールの大著をどうやって舞台化出来るのか、オイラ映像化でさえ不可能だとしか思えなかったのだが。原作は18世紀フランス革命直前、そのどさくさでポーランドを併呑しようとする帝政ロシア、その南下政策を極東蝦夷地そして日本に向けるべくアイヌの蜂起を促そうとするポーランド貴族、ロシアを牽制するためアイヌ蜂起を口実に蝦夷地を幕府直轄領にしようとする老中松平定信、その口実を作らせまいとアイヌを分断し弾圧する松前藩、蝦夷地から和人を追い払いアイヌモシリを取り戻そうとする国後・目梨アイヌ、蝦夷地を舞台としてこうした世界史的状況が一点に集約される。蜂起者側アイヌの世代間、部族間対立と認識のずれ、蜂起を挑発しようとする幕府間諜、個別資本とその手先、「正義派、理想主義者、過激派、スパイ、挑発者、裏切り者、跳ね上がり、無頼、日和見主義者、ロマンチスト、リアリスト、オポチュニスト、陰謀家」(文庫版解説井家上隆幸より)が、小状況に錯綜するという、まさに船戸与一の世界なのだ。
 脚本・演出の森井睦はヨーロッパ側の登場人物をバッサリ切り捨て(その代わり劇伴に西洋音楽を使ったとチラシで語っている)、世界史的状況を劇中人物の説明台詞で現し、蜂起するアイヌと、弾圧する松前藩そして幕府間諜、三者による植民地蜂起とその敗北の物語として設定した。なるほど、そういう括りでしか舞台化は無理だろうし、簡素な舞台美術と共に説得力のある芝居となっていた。台湾原住民の蜂起を描いた映画『セデック・バレ』と似た印象もそこから来るのだろう。もしかすると参考にしてるのかもしれない。ただ台詞に多くが詰め込まれているため、原作未読の者には分かり難いだろう。
 オイラ原作を読んだ時に思ったのだが、最後に生き残ったアイヌの若者による復讐譚になってしまうのはなぜなのだろう。まるで水戸天狗党の生き残り、武田耕雲斎の孫武田金次郎の後日談のようではないかと。この芝居を見て確信した。船戸は確かに水戸天狗党と重ね合わせていたのだ。







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