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評者◆ベイベー関根
え、トマス・ピンチョンもヘンリー・ミラーも知らないの? ださ!
ミラーさんとピンチョンさん
レオポルト・マウラー訳、波戸岡景太訳
No.3136 ・ 2013年11月30日




■しかし、小学館集英社プロダクションもよう次から次へとBDの翻訳とか出すよねえ。本当に売れてんのかね。ま、売れてるんだったらいいけどさ。がんばってちょー。
 だが、そこで生まれもったるヒネクレ者の血がうずく、といいますか、そういうのが順調に出ていくと、それ以外のものを取り上げたくなってしまう性分なもんで、今月はコレだ、レオポルト・マウラー『ミラーさんとピンチョンさん』。知らないでしょ(笑)。
 え、知ってる? ピンチョンってトマス・ピンチョンでしょって? よく知ってるやん(笑)。じゃ、ピンチョンって、「ピンチョン」って後ろの方にアクセントがあるって知ってた?それはいいや、え、じゃあミラーってヘンリー・ミラーかアーサー・ミラーでしょって? よく知ってるやん(笑)。みんな20世紀アメリカ文学史に名を残す大作家ばかりですな。
 で、その人たちがモデルになってるような、そうでもないようなのがこの作品。
 あてどなくあちこちの土地を測りまくる測量技師、ピンチョン(もっとも自称天文学者にして数学者)とミラー(もっとも自称土木技師)の二人組。泳いでるうちに服を盗まれたり、ピンチョンが10年前に亡くなった妻の面影に悩まされたり、人語を話すゲスイドウワニが仲間に加わったり、オオカミ男であることがわかったミラーが男オオカミ(誤植に非ず、オオカミ男の反対で、月光を浴びると人間になるのだ)の息子と再会したりしながら測量の旅を続けるうち、T.C.ボイル(これもまた作家にちなんだ名前)と名乗る男から総領事の通達として、金星の太陽面通過の測量の仕事を依頼され、南アフリカに赴くことになる。これまでとはうって変わった灼熱の土地での過酷な作業の中、それぞれのもつ関係が少しずつ変化を遂げてゆく……という物語が、シンプルな絵柄で、1ページ6コマ、1エピソードだいたい6~12ページくらいのペースでじわじわ進んでいく。
 まずこの、たぶんペンだと思うんだけど、ちょっとにじみかかった線がね、味わい深いんだよね。こういう絵柄の方がかえって読む方が深入りできるという典型のような……それはいいすぎだけど(苦笑)、かなり入り込んでくるのは確かだな。今の日本でたとえていうなら、知性豊かな大橋裕之……それもいいすぎか。ってどっちに対して!?
 で、高名な文学者の名前がそれぞれのキャラクターにどうなぞらえられているかというと、これはある意味最大のネタバレになるような気がするので、これは本を読んでもらおう!
 シンプルで淡々としてるけど、感情をがっつり動かされるという点では、ノルウェーのマンガ家ジェイソンの『I Killed Adolf Hitler』ほかの諸作や、セスの『Clyde Fans』といった作品もそうとう強力なので、小学館集英社プロダクションにはぜひがんばってこのへんの本の翻訳も出してほしいものだ……って、最初と全然態度違うやん!(笑)







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