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評者◆hit4papa
幼い頃、殺人者の娘になってしまった姉妹。彼女たちの三十余年の人生がつづられる
殺人者の娘たち
ランディ・マイヤーズ著、鹿田昌美訳
No.3136 ・ 2013年11月30日




■幼い頃、殺人者の娘になってしまった姉妹。彼女たちの三十余年の人生がつづられます。罪というのは、それを犯した本人よりも、周囲の人々へ大きな傷を残してしまうように思う。
 例えば、信頼している人が、嘘をついていたとする。それがわかったとき、それまでの時間に比例して消えない悔しさに身を苛まれることはないだろうか。当人は謝ることで贖罪が済んだことになるのだろうが、他者にとっては赦すことに多大なエネルギーを費やしてしまいかねない。罪は人々の信頼を裏切る。失った信頼をもう一度得るのは、最初から信頼関係をつくるよりずっと難しいのだ。
 ランディ・マイヤーズ『殺人者の娘たち』は、そんな当たり前のことを思い起こさせる。
 本作品の主人公、ルルとメリー姉妹は、突然殺人者の娘になった。父ジョーイが、母セレストを姉妹の目前で刺殺してしまったのだ。降って湧いたような不幸。あげく、ジョーイは無理心中しようと、メリーの胸にナイフと突き入れる。ルル九歳、メリー五歳の時だ。
 メリーは一命を取りとめたものの、ジョーイは刑務所へ収監され、姉妹は過酷な人生を歩むことになる。本作品は、事件が発生してからのルルとメリーの三十余年をつづったものだ。
 事件当日、家を出ていたジョーイを、家に引き入れてしまったことを後悔しつづけるルル。ルルは、父を否定し、父の罪を憎むことで精神のバランスを保っている。一方、メリーは、自身が被害者であるにもかかわらず、父への愛にひたすら執着し続ける。
 家族を不幸にした父を決して赦さないルル。メリーはルルの頑なさをときほぐそうと腐心する。本作品では、ルルとメリーの視点が入れ替わってストーリーが展開していくのだが、愛や憎しみが複雑に入り交じった二人の心情が、とても上手く表現されている。はっきり言及されてはいないけれど、ルルには、容姿の美しい妹を無理心中の相手と選んだ父へ、「なぜ、メリーだったのか」という問いがくすぶり続けていたように思う。
 不幸な生い立ちを払拭すべく、温かい家庭をつくり、堅実な人生を歩むルル。放埒な男性関係を続け、迷いの中にいるメリー。姉妹は、成長するに従い、互いの人生観の違いから反目し、溝を深めてしまう。
 父ジョーイは、自分が何故娘たちに赦されないのか理解できない。贖罪は十分にしたはずだと。本作品は、罪の周辺にいる人々の傷が、簡単に風化していかないことをうかがい知ることができる。先に述べたとおり、信頼の再構築はとても困難なのだ。
 ストーリーの終盤は、ジョーイの出所が決まってからの姉妹にスポットがあたっていく。さてさて、ルルとメリーは三十年の時を経て、どのように父と対峙していくのか。そして、ルルとメリーの二人の関係はどう変化していくのか。僕は、締めくくり方として十分満足した。現実的であるがゆえに、感動をおぼえたのだけど、どうだろう?







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