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評者◆飯城勇三氏
日本人作家がいかにクイーンを取り入れたか、本格ミステリの手法で浮き彫りにした評論書――本書で提示したデータはすべて入手可能という著者からの挑戦状
エラリー・クイーンの騎士たち――横溝正史から新本格作家まで
飯城勇三
No.3136 ・ 2013年11月30日




■『エラリー・クイーン論』で「第一一回本格ミステリ大賞・評論部門」を受賞した飯城勇三氏が、『エラリー・クイーンの騎士たち』を上梓した。「エラリー・クイーン・ファンクラブ」会長でもある筋金入りのクイーン研究家による本作は、横溝正史をはじめとした日本の本格ミステリ作家九人が、いかにしてクイーンを自作に取り入れたかを考察したユニークな一冊だ。「『エラリー・クイーン論』が賞を取り、とても評判が良かったものですから、担当編集者から「また出そう」という話になっていました。しかし、「『エラリー・クイーン論2』はダメ。『2』は『1』より売れません」と釘を刺されていました(笑)。そこでエラリー・クイーンを絡めつつ、違う読者層を狙おうという意図で作られたのが本書です」
 そもそも構想自体は過去に遡る。「日本人なのに〝騎士〟というのは変ですよね。もともとは海外作家用の企画でした。以前光文社の推理小説誌『EQ』に、よくクイーン絡みの記事を書いていたのですが、そこで〝エラリー・クイーンの騎士たち〟というコーナーを設けたらどうか、という企画を考えました」。それはエドワード・D・ホックやジェームズ・ヤッフェ、スタンリイ・エリンの短編を紹介する際に、ただ載せるだけではなく、彼らに対してクイーンが書いた文章と、さらに飯城氏の解説を付す内容だったという。しかし結局別の企画が通って、「そのうちに『EQ』が休刊になってしまった」とのこと。
 作家のセレクトについては、「『EQ』で綾辻行人さんが短編(後に『フリークス』として刊行)を、笠井潔さんが『哲学者の密室』『オイディプス症候群』を書いていて、そういうクイーン・ファンの作家の作品を読みながら、日本人でも騎士に入れられるなと」。
 また『エラリー・クイーン論』で取り上げられなかったテーマも関連しているという。「例えば名探偵エラリー・クイーンとは違った複雑なキャラクターである〝探偵ドルリー・レーン〟の考察がそうです。実は麻耶雄嵩さんのメルカトル鮎がまさにドルリー・レーンなんです。そのためメルカトル鮎を考察すれば、自然にドルリー・レーン論になる。同様に、クイーンのラジオドラマに見られる典型的な〝探偵ヒーローもの〟の要素については有栖川有栖さん、〝手がかり〟の問題については鮎川哲也さんというように章立てできる。つまり表から見れば日本の本格ミステリ作家論、裏から見れば『エラリー・クイーン論2』というわけです。そうなると日本人作家のファンも買うし、クイーンのファンも買うでしょう」と笑う。
 とりわけ「ポイントとなる作家は松本清張」と強調した。本書で清張は、「読者が一番違和感を覚えるのは」と前置きした上で紹介され、しかも「クイーンの影響を受けてはいない」とまで書かれている。「クイーンの〝リアリズム〟、すなわち〝作者の都合〟ではなく〝犯人の都合〟だけで組み立てられる物語についての考察をはめ込める作家は、松本清張以外にはいないからです。そしてクイーンの影響を受けている作家ばかりにしたくなかったという理由もあります。たまたまクイーンのやろうとしたことと同じことをしている作家も入れたかったのです。例えば横溝正史であれば、〝ライツヴィルもの〟よりも早く書かれた〝岡山もの〟についても触れています。「結局、日本作家をダシにしてクイーンを褒めたいんだろう」とか「日本の作家はクイーンを真似たから人気が出たと言いたいんだろう」と読まれたくなかったんですね。その意味でも清張を入れる必要がありました」
 九人の作家が、九者九様にクイーン作品の徹底化や肥大化を行ってきた。しかしその創作は容易いものではない。「熱烈なクイーン・ファンのウィリアム・L・デアンドリアが書いた『ホッグ連続殺人』はガチガチの本格作品であり、とても評判がよくMWA(アメリカ探偵作家クラブ賞)を取りました。しかし次の『ウルフ連続殺人』まで一〇年以上かかってしまった。その理由を作者自身が「難しいからだ」と述べています。先ほど述べたホックもクイーンの贋作がとても評判が良かったのですが、その後一作しか書いていません。クイーンは一見簡単そうに見えて「自分でも書けそうかな」と思えるのですが、実際書いてみると難しさが分かるようですね。だからクイーンを褒める作家が多いのでしょう」
 飯城氏にとってクイーンは「読むたびに発見がある特別な作家」だが、「もちろんここで取り上げた九人の作家も読み返すと必ず発見があります」と指摘。本書を読んだ者はその〝発見〟を追体験すべく、必ずや言及されている作品を読み返すことになるだろう。飯城氏の評論は、そんな誘惑に満ちた〝挑戦状〟なのだ。「私が評論を書く上で一番大事だと思っているのは、それは紹介文ではないということ。犯人もトリックも既に知っている読者に対して、思いも寄らなかった見方を提示することで、さらに作品を面白がって読んでくれるものを目指しています。本書の考察に用いたデータは、読者の皆さんも簡単に手に入れられます。つまり本書は本格ミステリ作品を基にして、本格ミステリの手法で書かれた評論なのです」







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