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評者◆小嵐九八郎
ノサカ節は健やか――野坂昭如著『終末の思想』(本体七〇〇円・NHK新書)
No.3135 ・ 2013年11月23日




■バイト先の大学では文芸創作論というしかつめらしいタイトルの講座をやっていて、その冒頭では「誰が書いた、何という小説か」を当てさせている。ブンガクが解っていない上に、古臭い感性で質問するわけで、学生には済まないと思う。原則として戦後の小説だが、戦前のもあって、『春琴抄』、『蟹工船』、『雪国』、『個人的な体験』、『沈黙』、『エロ事師たち』、『海を見ていたジョニー』、『柳橋物語』、『ポロポロ』、『死の棘』、『人間失格』、『嗤う伊右衛門』の十二作を時代順は無視して設問する。これらは俺が名作と思っている。
 五、六年前に新潮文庫でブームになった小林多喜二の『蟹工船』を除けば正解率がよいのは川端康成の『雪国』と太宰治の『人間失格』だ。もっとも、小説を出だし、ピーク、ラストの三ヵ所のみのコピーで当てさせるわけで、もしかしたら無理な設問かもしれない。
 田中小実昌さんの『ポロポロ』は毎年、七十人中の一人か二人が正解、野坂昭如の『エロ事師たちは』三人か四人である。けれども無条件に正解者にはSAつまり特優とかの成績を進呈している。当方の思い込みが凄まじいからだ。前者は『新約聖書』の新しい生み直しを、後者は、当方の政治や革命の道にどこか偽善を感じさせるいかがわしさを教えてくれたゆえにだ。
 えーと、『エロ事師たち』は一九七〇年、拘置所代わりの中野刑務所にいた時で、二十五歳くらいの頃、週刊誌で色眼鏡の写真入りで“女のこまし方”を説く御仁に「この野郎」と感じつつ、娑婆の空気を知らねばと読み、性のニヒリズム、他者に尽くせば尽くすほど駄目になる矛盾を知り、仰天した。
 一旦は倒れた野坂昭如氏だが、毎日新聞でたしか月二で『七転び八起き』とか長いコラムを続け、最近『終末の思想』(本体七〇〇円・NHK新書)を出した。帯には「日本民族へ、お悔やみを申し上げる」とある。説く論は、まさに根っこの根を撃ちノサカ節は健やか。生きのびてほしいインターネットの世代の若者はこれを読み、その突破を懸命に考えてほしい。真実、終末は遠くない――はず。







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