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評者◆内堀弘
なごや古本屋案内――小さな交差点で教わったこと
No.3135 ・ 2013年11月23日




■某月某日。新聞をひろげると、神田の老舗古書店で、宋版(宋の時代にでた書物)が四億数千万で売りに出されたとある。それでも「安すぎる」と中国筋は言っているそうだが、消費税だけでも二千万を超えるのである。マンションぐらい買えてしまう。これが器というもので、もっぱらこの5%の額に驚く。そんなトピックを幕開けに、神保町は青空古本まつりの季節を迎えた。
 そんな頃、『なごや古本屋案内』(鈴木創編著・風媒社)が出た。名古屋とその周辺の古本屋さん四十数軒が紹介される。とても素敵な一冊だ。それぞれの店の書棚がカラー写真で載っていて、外とは隔絶されたあの独特の静けさまでが伝わってくるようだ。それにしても、書棚の写真とはどうしてこんなに面白いのか。端の本はなにかと、つい写真を横からのぞいてみたりする。
 この中に刈谷のあじさい堂書店があった。明るい店で若い(私よりは、だが)ご主人が「三年前に先代が亡くなりました」と話している。私は息をのんだ。そういえば最後にお話ししたのはどこの入札会であったか。
 先代の二宮さんは、たしかお弁当屋さんかお惣菜屋さんをやっていた。この人が大の古本好きで、とうとう自分で古本屋をはじめたと聞いたことがある。それがあじさい堂だ。古い建物で、妙に入り組んだ作りだったが、とにかく渋い本が並んでいた。神戸の黒木書店もそうだが、その主人が蒐めた本を見に行く。黒木さんが、二宮さんが、誰々が蒐めた本が並ぶ棚。駆け出しの古本屋には格好の教場だった。だから半年に一度ほど、私は刈谷まであじさい堂に棚を見にいったものだ。
 「これは珍しいよ」、二宮さんが小野十三郎の第一詩集『半分開いた窓』(大15)を見せてくれたことがある。版元の太平洋詩人協会は、協会とは名ばかりの小さな印刷屋で、一人だけいた職人が後の劇作家菊田一夫だった。「太平洋版が出ることはないよ。詩集を扱ってるなら買っておきな」と言われた。高い値段だったが二宮さんから頒けてもらう。その人の経験も一緒に買ったのだ。それがありがたくて、暗い街をドキドキしながら刈谷の駅まで歩いた。
 この本の中に「古本屋は小さな交差点のよう」という言葉があった。なるほど、そうだった。小さな交差点で、どれほどのことを教えてもらったか。







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