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評者◆秋竜山
何も覚えておりません、の巻
No.3134 ・ 2013年11月16日




■前野隆司『脳は記憶を消したがる』(フォレスト出版・本体九〇〇円)を読みながら考えた。本書でいう〈「記録力が年齢とともに衰えていくことは、喜ぶべきことなんだ」ということを論理的に説明し、あなたに納得していただくことだ。〉ということ。
 〈「あぁ、記録力が悪くてよかった。これからもっと記憶力が衰えていくとは、なんて幸せなんだ!」あなたにも、こんな感じを実感してもらえればと願う。〉(プロローグより)
 いったいこれは、どーいうことなんだ。年齢とともに記憶力が衰えるということは、哀しむべきことのはずだ。それを、喜ぶべきことだなんて。
 〈記憶とはフィードバックして記憶する必要のあるような、日常と異なる新しい何かが起こったときに、その新しい何かを忘れないようにしておく働きだ。したがって、新しい経験をしなければ忘れやすくなる。いや新しい経験ではないということは、メリハリのないありふれた経験だから記憶しにくいといえる。(略)つまり、記憶は、それを蓄積することにメリットがある場合に行われるのであって、メリットがなくなればしないものだということなのだ。〉(本書より)
 脳の中で、この記憶はすべきか、すべきでないかを考えているということか。「この記憶は、私にとってメリットのないものだ」なんて。そういうことを考えるのも脳であって、脳以外のどこで考えるというのか。〈悲しい記憶は何のためにあるのか?〉これは、とっても重要なことである。悲しい記憶にも意味があるということだ。消してしまえ!! などと、脳は判断はしない。
 〈では、メリットよりデメリットのほうが大きいような種類は、何のためにあるのだろうか。たとえば悲しい記憶はデメリットが大きいように感じられる。(略)悲しい記憶だって適応のために必要だから存在しているのだ。悲しいことはよくないできごとだから、次から同じようなことが起こらないように気をつける必要がある。(略)悲しいできごとのエピソードを脳裏にしっかりと焼きつけておくために、悲しいことの記憶が存在するのだ。〉(本書より)
 脳はそんなことまで考えているのか。そして、〈そもそも人は、どうして悲しい映画に感動するのだろうか。〉かわいそうだから感動するのだ、では答えにならないのだろう。脳がそのような仕組になっているから、なんてのも答えにならないだろう。
 〈映画を見る人は、悲しい場面を見て、感動してぽろぽろ泣く。自分の身に悲しい事件が降りかかった際、ぽろぽろ泣いたあとに「感動した」とは言わないのにもかかわらず。それは、悲しい場面に感動しているのではなく、悲しい場面を乗り越えて、困難に打ち勝つ登場人物の姿に感動するのだという説明をする人がいる。もっともに思える。(略)つまり、自分の身に降りかかった不幸とは明らかに違って、悲しい場面を客観的に見たり振り返ったりすることができる。これが悲しいことを感動と感じるための条件の1つだといえるだろう。〉(本書より)
 そんな悲しい場面も、どんどん忘れてしまっていく。たのしい場面、笑える場合も、悲しい場面に思えてくることもある。そして、悲しい場面を感動しなくなったら、どーしましょう。







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