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評者◆小嵐九八郎
日本小説史の“人人”の欠落をも炙り出す
牛 築路
莫言
No.3134 ・ 2013年11月16日




■当面の革命が社会主義革命ではなく民族主義民主主義革命としたスターリンや毛沢東の戦略の要を引きずって、愛国主義で求心力、プロレタリア独裁が一党独裁となって、うーん、歴史って大変というのを背負っている中国に対して、近頃、日本では排他的ナショナリズムの感情的反発が強くなっている。一九三七年の盧溝橋事件の時、中国を「膺懲せよ」と煽った一番は軍部、政党、大新聞の順ではなく、大新聞、政党、軍部の順であると、新聞記者の四代記の小説を当方が書いて分かったことだ。メディアは、ここのところをきっちり踏まえ、現今を報道すべきだろう。
 去年の莫言(モー・イエン、ばくげん)氏へのノーベル賞も、村上春樹さんへの日本人の期待のせいか、莫言氏が中国共産党に従順で人権問題に沈黙しているとの理由でか、その小説の内容を巡る論議は薄かった。俺もまた莫言氏の小説を読まずに済ましてきた。反省します。どうもムードに弱い性格で困りもの。
 そしたら、あるカルチャーセンターの生徒さんが莫言氏の小説をテキストにしてくれと要望してきて、恥ずかしながら『牛 築路』(菱沼彬晁訳、岩波現代文庫)を読んでみた。
 仰天。同じ中国の鄭義(チョン・イー、ていぎ)氏は天安門事件で逮捕状が出て支援団体によってアメリカへと逃れている。その『神樹』(藤井省三訳、朝日新聞出版、今は絶版か)ほどのマジック・リアリズムの濃さではないとしても、庶民のにおい、しぶとさ、哀しさにおいては勝るような。鄭義氏の『神樹』には、その虚構のスケールの大きさと共産党批判の凄みがあり、日本の小説は敵わぬと思い、莫言氏の『牛 築路』に対しては庶民と徹底的に同じ目で、その命運を自身に重ねていて、やはり、日本の小説史と較べると頭を垂れる。日本のそれは、野坂昭如氏の『エロ事師たち』、田中小実昌の『ポロポロ』など稀有。概ね、ええかっこしいで、細い。
 莫言氏の小説は、中国文化大革命を経ての後に書かれていて、発表の許される時代が訪れたとしても、日本小説史の“人人”の欠落をも炙り出している。どしたら、よかんべ?







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