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評者◆三島政幸(啓文社コア福山西店)
巨匠が挑む福山の謎
星籠の海 上・下
島田荘司
No.3133 ・ 2013年11月09日




■名探偵・御手洗潔、福山に来たる!
 島田荘司氏の新刊『星籠の海』は、福山出身の島田氏が故郷の福山を舞台にした大長編本格ミステリである。しかも、ファンから絶大な人気のある名探偵・御手洗潔とその相棒・石岡和己が二人揃って福山の地に降り立ち、いままでの傑作長編群に勝るとも劣らない大活躍を見せるのである。福山在住のミステリマニアであり、島田氏の作品に多大な影響を受けてきた私にとっては、まさに悲願が二つ同時に叶ったような、そんな作品である。
 事件の舞台は1993年、御手洗潔があの奇想天外な『ロシア幽霊軍艦事件』を解決した直後という設定だ。横浜は馬車道にある御手洗の探偵事務所をある女性が訪ねてくる。彼女の故郷である愛媛県・松山沖の島に、身元不明の死体が次々と流れ着いているというのだ。御手洗は通産省の水理実験場にある巨大な瀬戸内海の模型を借り、その死体が複雑な地形の瀬戸内のどこから流れてきたのかを探ることにした。試行錯誤の末、ついにその島へ流れ着いた源流を発見した。その地こそ、福山だったのだ――。
 しかし、御手洗・石岡コンビが福山にやってきてからがこの事件の本当の始まりだった。奇想に満ちた数々の事件を追って福山・鞆の浦を駆け巡る二人。内海町の島に本拠地を置く謎の新興宗教団体の影(時期的にも、オウム真理教を想起させる。なお本書で描かれたような宗教団体は実在していないので念のため)、阿部正弘や村上水軍を巡る歴史に隠された秘密、そしてあの島に流れ着く死体の正体は? 上下巻合わせて900ページ近い大作だが、読み始めたら止まらない圧倒的なストーリーテリングで、ラストまで一気に読まずにはいられないはずだ。
 島田氏の、とりわけ御手洗潔シリーズに見られる傾向は、とても現実とは思えない奇怪な風景を読者に見せ、それを現実レベルに引き戻し、どんなに強引な話でもその語り口で説得させられてしまうところにある。いくら何でもそれはあり得ないでしょ、というような奇想でも、島田氏ならば起こせるし、読者も納得してしまうのだ。本書でも序盤から不可解なことが数多く起こり、さらに歴史上の謎まで巻き込みながらも、それら全てをひっくるめて背負い投げを食らわしている。特に凄いのはラストの展開で、さすがにここで書くわけにはいかないが、ある「奇跡」を現実に見せてくれる。そのシーンには思わず目頭が熱くなってしまう。そんなの荒唐無稽すぎる、と思うのは野暮というものだ。
 島田氏は現在、本格ミステリの裾野を広げる活動に熱心にあたられている。地元・福山で本格ミステリの新人賞「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を創設し、今年までに受賞作・優秀作含めて9作品を世に出している。受賞後の活躍が目覚ましい作家も少なくない。また、現在の本格ミステリの潮流はアジアにある、という思いから、台湾でその名も「島田荘司賞」というミステリ文学賞も作っている。今から思えば、1987年に綾辻行人氏が島田氏の推薦の下『十角館の殺人』でデビューしたことが、後の「新本格ミステリブーム」の始まりだった。ミステリ界を引っ張り、後進を育てていきながら、実作でも常に挑戦的かつ前衛的な作品を発表し続ける島田氏の創作意欲は、『星籠の海』を読む限り、まだまだ衰えることはないだろう。







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