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評者◆添田馨
〝書〟表現の新しい風――「華書」が織りなす詩的宇宙
No.3133 ・ 2013年11月09日




■その人が送ってくれる年賀状は、毎年きまって得も言われぬ高貴な風情を醸し出していた。葉書には、見事に崩された歳々の漢字がシックな色彩の絵の具で力強く、はみ出さんばかりの勢いを保ったまま想像上の雅やかな鳥のように両の翼をいっぱいに広げ、今にも飛び立たんとするかのごとく躍動しているのだった。
 何年間か年初のそうした交流が続き、そしてもう何年も交流は途絶えていたが、私は他に類をみないそれらの〝作品〟を不思議と忘れたことはなかった。記憶の中に自分だけの大事な天体のようにずっと抱き続けていた。書でもありまた絵でもあるその作品たちは、その後「華書」(www.marsajapan.com)と命名されることになる。その人が日本でただ一人の華書作家として、晴れて独立したからだ。
 華書は〝文字〟によって描かれた絵であり、同時に〝絵〟を使って書いた文字だった。漢字は存在言語の全円的な表象形でもあり、それ自体に意味と像と音の三要素を内在させている。そしてこの華書はまぎれもなく意味と像の両面から、純粋な存在言語の暗喩を構成するまでに完成された姿を誇っていた。そして沈黙の響きである音までをも具現しているかのようだった。その意味で華書は実に絵で描いたひとひらの〝詩〟でもあった。
 その人の手にかかると、文字は記号としての決めごとや制約から一気に解き放たれ、この世ならぬ新しい命を宿す魔法の生き物と化した。「心」という作品は深層の無意識の闇のおもてを一瞬走った炎の軌跡がそのまま映し取られたかのようであり、それじたいが燃えるという生命の営みの暗示にもなっていた。「華」という作品は流れる水に音もなく降り落ちる万朶の櫻の花びらが、川面において〝華〟という字形をみずから奇跡的に織りなしたかのように、運命のみえない糸がたがいに結び合う様を逆に紐解いているような印象を残す。宇宙は〝気〟で満ちみちており、それを汲み取るのが本源の文字の力なのだとそれらの書は告げている。







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