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評者◆熊谷隆章(七五書店)
名古屋の文化史におけるちくさ正文館の存在感
名古屋とちくさ正文館
古田一晴
No.3132 ・ 2013年11月02日




■「名古屋でおすすめの本屋はどこですか」と質問されたとき、ちくさ正文館の名前を最初に挙げるひとは多いだろう(私もその中の一人)。本書は、そのお店に四十年近く勤め、なお現役である古田一晴氏へのインタビューをもとに構成されたものである。
 ちくさ正文館といえば人文書の品揃えが有名だが、とりわけ濃厚さが感じられるのは、人文書のフロアの奥のほう、映画・音楽・演劇の棚である。学生のころから映画にかかわっていたという古田氏にとってはルーツとも言える分野で、名古屋モダニズムの系譜とあわせて多くのページが割かれている。複合店・大型店チェーンではない、個店としての強い意志を持った本屋を「単館」系とたとえているのも本書らしいところといえる。
 定評ある売場を作っている著者の本に対して書店員や出版関係者が期待するのは、そのノウハウであるとか、あるいは出版業界の現状への問題提起だったりすることが多く、本書ももちろんそれに応えている。たとえばブックフェアの考えかたについて、雑誌売上の低落について、時代にそぐわなくなってきた常備寄託のありかたについて、データや検索に依存しがちで現場の力が落ちていることについて、など。それぞれが個人として検討すべき問いであり、対応せざるをえない現実でもあるので、非常に興味深く、参考になる部分が多い。
 しかし、それ以上に私が本書を読んであらためて感じたのは、名古屋の文化史におけるちくさ正文館の存在感であった。大学生になってから本屋でアルバイトを始め、そしてちくさ正文館にも通うようになった私は、書店員としてこのお店の売場から強い影響を受けたと自覚しているし、同様のかたはきっと少なくないと思うが、「名古屋とちくさ正文館」の関係はまだまだ奥が深いということを思い知らされた。ひとつの土地に長く根ざし、文化に寄り添い、そしてこれからも在りつづけるだろうという信頼感が、多くのひとに「名古屋でおすすめの本屋」として名前を挙げさせるのである。
 長きにわたって名古屋の本屋として仕事をしてきた矜持が随所ににじんでおり、まさしく書名どおりの本といえる。その意味で、特に名古屋で本の仕事に関わっているひと、関わっていこうと考えているひとは読んでおくべき本であろう。
 また、「本を売る店」としてのこれからの本屋のありかたに関心があるひとにとっても示唆に富むものだと思う。
 インタビューの終盤、「次代の人材を育てる」ことの重要性について語る部分がある。「ある程度、時代の波長が読めて、それを具体的に棚や品揃えに反映させ、継続させて明確な店のカラーに打ち出せる若い人たちの出番だと思う」という言葉に表されたやりかたは、まさに古田氏がちくさ正文館で実践してきたことのように見える。そして、この方法論は決して人文書においてのみ通用するわけではなく、さまざまな本のジャンル、あるいは店の立地において、実現されうるもののはずである。
 本を売ることにこだわり、それによってこれからの本屋の可能性を切り拓いていくことができるなら。
 今こそ、そういう「単館」がもっとたくさんあってもいいのかもしれない。







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