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評者◆小嵐九八郎
透徹した死への構え――尾崎秀実著『新編 愛情はふる星のごとく』(本体一二〇〇円・岩波現代文庫)
No.3131 ・ 2013年10月19日




■この夏のお盆は、敗戦の日と重なるので、毎年のようにしおらしい気分で、講談社の写真つきで日中戦争、太平洋戦争が分かる『昭和二万日の全記録』のvol.4~vol.7を読み、何冊かの戦争ものを読んだ――むろん、秋田出身の俺としては、東北勢の粘った高校野球を観戦しつつ。
 その中では、再読だけれど、やっぱり『新編 愛情はふる星のごとく』(岩波現代文庫)が心を強く打った。当方は一知半解であるが、尾崎秀実は、一九四一年、いわゆる“ゾルゲ事件”で、できたばっかりの国防保安法で逮捕され、一九四四年にゾルゲと共に死刑執行されている。ゾルゲは『広辞苑』のSEIKO版では「ソ連赤軍諜報員」である。この文庫では尾崎秀実の親しい友人の松本慎一が「尾崎は上海時代にゾルゲと知り合った。当時ゾルゲはコミンテルンの人物であった。後にゾルゲは日本に来朝したが、その時彼はナチス・ドイツの日本大使館員であった。彼はヒットラーの信頼を受け、在日ドイツ大使オットーの信任があつかったといわれる」と記している。凄いたまである。尾崎秀実もまた、ジャーナリストとして活躍し朝日新聞記者、第一次近衛内閣嘱託などをしていて、もう日本国内に共産主義者は獄中にしかいない時代に、孤立無援、反戦主義を越えて敗戦主義が日本の人人のためになると、妻にも自らの役割を教えず、国際的諜報活動を行なった。泣けるほどの筋金入りなのである。
 妻への獄中への手紙が軸で、自らの思想や一大任務を打ち明けてこなかった分、その心遣いは痛ましい。娘が大人になりかける時で、読んでいられないほどの細かい躾を含む愛情に溢れている。そもそも、その読書の幅の広さ深さは唸るばかり、だからこそ、信念を貫き通せたと解る。当たり前、敗戦後の共産主義者とは時代が違って女性への考えなどに古さがあるが、死への構えは、新左翼が視野に入れてこなかった透徹したものがある。敵、ときっちり闘いきることは大切なんだと降参した。







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