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評者◆内堀弘
西荻窪の古本屋さん――暮らしが豊かになる場所
No.3131 ・ 2013年10月19日




■某月某日。かつて古本屋は、暮らしの最寄りにあるものだった。郊外の町に、映画館があり、銭湯や貸本屋があったように、古本屋もあった。いま、町にそれがなくても、暮らしに不便はない。
 九月の終わりに『西荻窪の古本屋さん』(広瀬洋一・本の雑誌社)が刊行された。ここには音羽館という郊外の古本屋の日々が綴られる。何をしたくて古本屋をはじめたのか。どんな棚を作りたくて古本屋を続けているのか。その覚悟までが伝わってくるような一冊だった。
 この四半世紀、町の新刊書店も激減した。それでも、書店全体の床面積は増えている。つまり小さな店が淘汰され大型化ばかりが進んでいるのだ。その影のようにリサイクル型の「新古本」チェーン店が次々と現れ、さらにまた、そこで「セドリ」をして大型サイトで転売する人たちが跋扈する。本を巡るビジネスモデルは変化していて、それにどう対応するかだと言われれば言葉もない。だが、できればそういうことの外側でやりたいことがある。だからここに来たのではなかったのか。「ここ」というのは古本屋のことだ。
 町に古本屋がなくても暮らしに不便はないと書いた。だが、それがあることで暮らしは豊かにならないだろうか。ネジ一本までがネットで買える時代に、音羽館が作ろうとしているのは、その町で暮らすことが、ほんの少し嬉しくなるような場所だ。
 私が古本屋をはじめたのはもう三十年も昔で、町の古本屋はまだ大いに繁盛をしていた。商店街の一等地に出店し、資力あるものはより大きくなった。だが、そうではない若手の一部は、やはりその外側に向かった。「店」から離れて、在庫目録の中に、思うような古本屋を編んだ。郊外で、無店舗で、専門化する。それが、願う古本屋になることだった。私もそうだった。
 この本を読んでいると、私(たち)が置き去りにしてきたのは、こういうものだったのかと改めて気づく。
 西荻窪は静かな町だ。夜、九時も過ぎれば音羽館の前に人通りもなくなる。でも、ここに明かりが灯っている。扉を開ければ、木の床の小さな店に静かな音楽が流れ、何人かお客さんが書架を見つめている。こんな古本屋がある町は、幸せだ。








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