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評者◆秋竜山
自分だけペラペラ喋るなよ、の巻
No.3130 ・ 2013年10月12日




◆東京といわず、日本中から喫茶店が消えたのは、時代のせいかもしれないが、ちょっとしたミステリーでもある。東京には喫茶店がひしめきあっていた。これは一大文化といってよいだろう。文化というものは庶民のものである。その証拠に、いろんな喫茶店が生まれては消えていった。喫茶店に入ったら、なにかを注文しなければならない。コーヒーが多かった。コーヒー一杯で何時間も時間をつぶせた。くだらない話ばかりしていた。そのくだらない話が面白いのであって、まじめな話を喫茶店でしていたのは誰だ。まじめな、といっても、くだらんまじめな話ということになる。喫茶店というところはそーいうところであった。今では考えられない。店内は明りをおとして暗くしてあった。なぜ暗かったというと、明るいより暗いほうがより喫茶店らしくて、ボソボソと雑談がはすんだ。つまり、その当時の青年たちは、みな根くらであったのである。
 そんな文化が姿を消してしまったのを一番なげいたのは、雑談好きの青年たちであった。あの当時、田舎から不安ながら漫画家を夢みて上京した青年たちは、知りあった漫画という共通の雑談こそが生きがいであった。漫画というものは、まじめくさった会話ほどつまらなく、くだらん雑談ほど、たのしいものはない。くだらん雑談の日々であった。名曲喫茶では店内にはクラッシック音楽が芸術的に流れ、フンイキをたかめた。音楽好きの人たちはたまらなかっただろう。みんなベートーベンのような顔をして、店内に流れる音楽をかみしめていた。そんな中で漫画家数人で、「現代の漫画はだねぇ!!」なんて、自然と声が大きくなったものであった。青くさい漫画論ほど、楽しいものである。まわりのベートーベンが一斉に「シーッ」なんて声をあげた。考えてみればあんな面白い光景を、今、東京でみることはできないだろう。
 ビジネス科学委員会『仕事が9割うまくいく雑談の技術――人見知りでも上手になれる会話のルール』(角川oneテーマ21、本体七八一円)では、雑談について解明し、雑談力を身につけようというものだ。〈口下手でも人見知りでもこの一冊で不安が消えます〉〈たまに顔を合わせるからこそ雑談すべき〉だという。昔は喫茶店で毎日顔を合わせて雑談していたけど。
 〈合いの手でよく使われるのが、「大変ですね」「よかったですね」「さすがですね」「そうなんですか」などです。しかし、これのフレーズが便利だからと頻繁に使うと、その値打ちが下がり、気持ちのこもっていない自動音声のように、話し手の話す気を削いでしまうものになってしまいます。逆に、豊富な合いの手を持つことが話し手の気持ちを高めて、多くの話を引き出す有効な手段になることは言うまでもありません。〉〈相手が心地よく満足する割合は、八対二くらいと考えていいでしょう。〉(本書より)
 これを八対二の法則という。自分だけペラペラ喋って相手に喋らせない、というのは下手な雑談ということになる。雑談名人たちの雑談を聞いてみたいものだ。〈雑談は、お互いが聞き手と話し手になって盛り上げていくものです〉と、いう。よく会議中などに「雑談はやめください」などと注意されたりするものだ。







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